STORY44 父上 ページ47
「お嬢様、お時間です。」
「ええ、すぐ行くわ。」
もうそんな時間かと時計を見ると、父が指定した時間に迫っていた。
鏡で身なりを整え、扉を開けた。
そこにはいつも通りの姿をしたウメさんがいた。
久しぶりに帰宅してから自室に篭っていたから、それ以外の廊下などは本当に久しぶりだ。
そうだ、そっちが兄の部屋に繋がる廊下で、兄上の隣の部屋が弟の部屋だった。
…この道は父の部屋。
「お嬢様、もう聞かれたとは思いますが当主が変わりましたので、旦那様のお部屋はこちらですよ。」
…そうだった。
父の部屋は、今はもう兄の部屋に変わったんだ。
何も変わってないと信じていた実家は、全然変わっていた。
私が変わったように、この家も変わっている。
時の流れは平等だとでも言うように。
案内された部屋の前で、胸元の赤いネックレスを握りしめ、深呼吸をする。
「お嬢様、緊張しすぎですよ。…大丈夫、安心してくださいませ。何かあれば私がついております。」
「うん、ありがとう。頼りにしてる。…さあ、行きましょう。」
震える右手を左手で抑えつつ、ノックを響かせる。
「入れ。」
聞き覚えのこの低い声が懐かしい。
失礼致しますと私が言葉を挟み、ゆっくりと扉が開かれる。
開けてくれたのはウメさんだ。
最近は全て1人でやっていたから忘れていたが、私たちの身の回りの世話や行手を阻むものを退けるのは、全て使用人の仕事であった。
父に会ったらまず久しぶりの挨拶と時間を割いてくれたお礼を言う___つもりだった。
私は目の前の男を見て、考えていたことが全て吹っ飛んでしまったのだ。
私の口が半開きになり止まった。
開いた口が塞がらないとはこのことかと、雰囲気にそぐわない考えをした。
「何しにきた。」
__今更。
そう彼の目が言っていた。
いやそんなことよりも、目の前の男は誰だ。
父はそんなに痩せてなかった。
そんなに皺もなかったし、何よりも目に覇気がなかった。
(病はこんなにも人を変えるの…?)
「…過去を、清算しにきました。」
「…お前は変わらんな、5年前…いや、昔から。」
「…父上は随分変わりましたね。」
父は私の言葉に自嘲気味に笑った。
昔はそんな笑い方をする人ではなかったのに。
[父 剣一]
成田 剣一(けんいち) 49歳男性
・不器用な堅物親父
・2年前に患うも完治、今は心配無用
・若い頃ほどではないが、まだ剣は扱える
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たいる(プロフ) - わかさん» こっちにもコメントくださってたんですね!笑ありがとうございます。笑っていただけて良かったです笑笑 (2021年7月11日 17時) (レス) id: 14bca84003 (このIDを非表示/違反報告)
わか - ミョウバンは笑った!!笑笑 (2021年7月7日 21時) (レス) id: 44294a6bf9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たいる | 作成日時:2021年1月8日 0時