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39.例えどこへ進もうと ページ39

「変なことを聞かせてしまったね、ごめん」

九十九さんを見送って、立ちすくんだままの夏油くんが私に謝った。ちらりと夏油くんを横目で見るが、彼は俯いていた。

「呪術は非術師を守るためにあると、悟にも言っていたというのに」

彼は揺れている。その相対する思考に彼は悩み苦しんでいる。日は陰り始める。じっとりとした空気が体にまとわりつくようだった。

『悟が大切にする世界で、私も皆を大切にしたい』

ここで私が夏油くんに弱者生存、弱気を助け強気を挫く。そのあり方を伝えることは簡単だ。でも、それじゃ夏油くんのこの葛藤はまた繰り返される。術師を続ける限り、夏油くんにはこの悩みが尽きることが無くなってしまう。今はただ、悩んでいいと思った。九十九さんが言っていたように、それは夏油くんが選択をするのだ、と。直ぐに結論をだすものじゃない。

そっと夏油くんのほうに体を向ける。正面からみた彼は、本当に疲れていて、力なく両手はぶら下がっている。私の視線を感じて、彼も私をみた。瞳がぶつかる。




「悩んでいいんだよ。夏油くんの心は今、そんなに強くできてない」



だって、たかだか17歳。


「上手くいかないことだってあるよ」


全部、上手く行けばどれほど良かっただろう。全部、正しい道を行ければ、どれほど。でもそんなことは絶対にできない。だって私たちは一人一人違って、一人一人生きてきた道は違うから。

悩むことは悪いことじゃない。それは自分が考えているから。


「夏油くん、真面目だから色々考えてるんだよね」


正面から見上げた夏油くんは少し目を見開いていた。私の言葉を静かに聞いている。大丈夫だよ、と伝えたかった。


「夏油くんがどんな選択をしようと、夏油くんは夏油くんに変わりないから 」


皆が私を大切にしてくれる。
私も皆を大切にしたい。


夏油くんは緩やかに口角を上げる。少しだけ、泣きそうな顔をしていた。夕日が差し込む。2人の影を伸ばす。

ありがとう、そう答えた夏油くんの声は力なく、少しだけ震えていた。

40.曇天→←38.選択



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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月4日 8時

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