光と闇に、二つの世界の胎動２【五条悟】 (ページ33)

今日:3 hit、昨日:4 hit、合計:92,504 hit

33.一部屋の世界(五条悟) ページ33

反転術式を使えるようになってから、俺は1人で任務に出ることが増えた。俺一人でほとんどの事に方がつくから。傑も1人で任務に出ている。硝子はもともと危険な任務にはつかない。むしろ高専に残って反転術式の研究をしている。

俺が1人で危険な任務に出るから、Aは高専に残ることが増えた。術師ではなく、補助監督を目指しているからでもある。簡単な式神や結界など使いこなせるように修行をしているようだ。自分の手を離れていく、そんな感覚だった。

だから、最近は任務が終わるとAを部屋に呼びつける。もう俺に怯えてはいないようで拒否もなく、なんの疑いもなく俺の部屋にくる。そうして決まって、またあの頃のように口付けをする。

一人の時間が増えた。Aがいない時間が増えた。今、Aは誰をみてるんだろうとか、誰かがAを下衆な目で見ているんだろうかとか、そんな苦しい感情が湧き出ることが増えた。

ただ、こうしてキスをしている間はそんな感情は出てこなかった。こいつの目の前にいるのは俺で、Aがキスを受け入れるのは俺だけだと分かっているから。

その瞳に俺を映していると、どうしようも無く体に熱が籠る。
俺を見て、俺だけを見て。

「さとる、」

俺の名前を呼んで。俺だけを呼んで。
たった一部屋、この部屋だけが俺とお前の世界だから。

どろどろに甘やかして、俺から離れられなくすればいい。
俺から与えられる感覚だけを受け取って、俺なしじゃ生きていけなくなればいい。

髪を撫でる。柔らかな髪は指の間をさらりと抜ける。そのまま顔を寄せてもう一度口付けをする。今度は深いやつ。

ちゅく、と水温が響く。舌が絡まって熱が籠る。俺を受け入れるAが愛おしい、もうその黒かった感情は溢れすぎていた。自分の体には収まりきらないくらい、Aの体も、胎も絡めとって。

「俺だけを見て、A」

すうすうと、隣で眠るAの頭を撫でる。子供みたいに眠るAは男の穢れを知らない。ただ俺の愛情を、綺麗なものだと受け取って、それを幸福だと思って。俺の気持ちに応えようとしている。俺はもう、こんなにもお前のことを汚したいのに。その体に、俺の痕跡(しるし)を刻みつけたいのに。

寝ているAの腹を撫でる。もうそこで呪力が練られようと、俺は。