23.手探り ページ23
それからはあまり記憶にない。一緒に来てくれた術師の人に高専へ戻りましょうと言われて、ほとんど無理やり高専に帰らされた。悟はやることがあるから、と一人盤星教本部の中に入っていった。私はそれを見つめていた。
夏油くんに聞いた話だ。
理子ちゃんは殺された。あの男によって。
理子ちゃんの死体は盤星教へ捧げられたのだという。盤星教信者は理子ちゃん、星漿体の死体を拍手とともに笑顔で迎え入れたという。頭がぐらぐらした。それを聞いた時、私は吐き気を催した。人間の死が、望まれる世界に。
悟はあの一件以降、私をよく見つめるようになった。今までのそれとは違う瞳で。それでも、まるで取り繕うように私に話しかける。私も踏み入れることは出来なかった。
星漿体の件から数日。
夜、喉が渇いて寮から出て自販機のあるところまで来た。ベンチには先客がいた。
「夏油くん」
「……Aちゃん」
いつも結っている髪は下ろしていた。
「隣、いい？」
「どうぞ」
そういって、私のスペース分夏油くんは腰を動かす。そっと夏油くんの隣に座った。
「眠れないのかい？Aちゃん」
「うん、」
あの一件以降、夜目を閉じると血の匂いを思い出す。足元に広がる血の感触。徐々に奪われる体温、固くなる体。目の前に突きつけられた死を否が応でも思い出してしまう。
「悟の所に行けばいいのに、いつも行っていただろう」
息が詰まる。悟の部屋にはもう行くことが出来なくなっていた。夜、眠れなくて悟の部屋の前まで行ったことがある。ドアをノックしようとしたけど、持ち上げた手がノックをすることはなかった。また、あの時みたいに見つめられたら。また悟に怯えることがあったら。あの時、悟のことをだれ、と思ってしまった、あの時みたいに。
そう考えると悟の部屋には入れなくて、自分の部屋に戻っていた。悟だって私が部屋の前にいたことに気づいていただろうに、部屋から出るわけでもなく、また次の日顔を合わせていつも通り話しかけてくる。
分からない距離感だった。
「悟に頼りすぎちゃってたから……もうそろそろ、ひとり立ちしないとね」
変な空気にしたくなくて、わざと笑って夏油くんに話す。揺れている心は夏油くんにはバレていたようで、夏油くんは私の笑みに乗ることは無かった。
「無理しちゃだめだよ。疲れが顔にでてる」
そう言った夏油くんも、眠れていないんだろうな。こんな夜更けに起きてるんだから。でもそんなことは言えなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 523人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雛形 | 作成日時：2022年1月4日 8時
