君と目覚め ページ25
紫色になった唇を何度か震わせるAに「ゆっくりでいい」と囁くと安堵したように間を置いてから口を開いた。
「た、まぁ、き、さ…」
やっと出た声は生気をすっかり失った掠れた声で。俺の名前を嬉しそうに呼ぶあの心地よい声は今や面影もない。
「うん、そうだよ、俺だ」
涙を零すのを必死に我慢して微笑み掛けるとAは静かに、やっと焦点のあった双眸から涙を流し始めた。頬を包む手に沿って涙が伝う。酷く冷たい、氷のような涙。
「たまきさ、わた、し…、あな、たのこと、おもい、だせな、い」
「どうして、も、おも、だせ…な」
しゃくりあげながら、ふるふると首を振ってAはうわ言のようにそう繰り返す。ごめんなさい、ごめんなさいと謝る口を思わず塞いだ。
毒が口付けを通して体内に侵入するのが分かった。途端に胸が苦しくなる。それでも、それでも俺は構わない。
ゆっくり唇を離すとAは信じられない、というように見開いた目で俺を見つめていた。陶器のように冷たい頬を撫でながら、俺は深呼吸をする。
「俺が」
「俺が、俺が、何度も名前を呼ぶよ」
「Aが思い出すまで、愛してる分だけ、何度も、何度も──────」
何度も、今まで何度も君が、俺の名前を呼んでくれたように。
「A、愛してる」
今まで長年の生活の中で大切に大切に紡ぎ、育んできた、精一杯の愛を込めて。
俺はもう一度目を瞑って唇を重ねた──────。
パァン
乾いた音が脳内に響いて、霞がかった視界が晴れる。
胸の内を蝕んでいた泥のような感覚が波に流されるように消えていき、私は大きく息を吸った。
「あっ、はぁっ！はぁーっ！」
誰かが、誰かが懸命に私の名前を呼ぶ。いつでも私の耳に届いて、胸を温めてくれる優しい声。ずっと、この生命尽きるまで聞いていたい声。
晴れた視界の中、瞑っていた瞼を開くと──────目の前にはたまきがいた。
「た、ま、き…」
「…A…？」
名前を呼ぶと、たまきは堰を切ったように涙を流し始めた。「A、A、良かった」と何度も名前を呼んで私を抱き寄せてくれる。
たまきが、たまきが泣いてる。
どうして？もしかして私また迷惑掛けちゃったのかな？
──────なんとか、しなくちゃ。
なんとか。
そう心に強く思った途端、宙を舞っていた謎の黒い靄が身体の中に吸い込まれ始めた。
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alto(プロフ) - 素晴らしい作品でした！上手く表現出来ないのですが、とっても感動しました…！心が暖かくなりました。出てくるキャラがみんないい人過ぎて…すみません、言葉が纏まらないほど興奮してます！これからも応援してます！ (2020年9月12日 22時) (
レス) id: 22bf36de90 (このIDを非表示/違反報告)
星空_kanata_(プロフ) - 初コメです！この小説大好きで既に3回程読み直してます。天喰くんが推しなのですが初見の時は大号泣でした！他の小説も同じ作者さんとは気づいてなかったのですが、読みました！とても面白かったです！時間があれば、また天喰くんの話書いてくれたらな、と思います！ (2020年8月30日 1時) (レス) id: c2e895435f (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃奈瑠璃 - これほどまで感動した小説ありません！いい小説です！もう言葉に言い表せないくらい！ (2020年7月25日 14時) (レス) id: ce4d25fc12 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - シュラスさん» コメント遅くなって大変申し訳ございません！気づきませんでした…！ミリオも大活躍でしたよね…！段々と天喰くんのお陰で強くなれた彼女ちゃんです…！感動して頂けて嬉しいです！ (2020年4月2日 11時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 藍煙(元もも)さん» コメント大変遅くなってごめんなさい…！気づきませんでした…。ありがとうございます！最後まで読んでくださってもう感激です…！本当ですか！？なんだかとっても嬉しいです！執筆頑張ってください！ (2020年4月2日 11時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あろま
| 作成日時：2019年5月7日 17時
