その素顔、俺に見せろ【宮侑】

春、能面、再び ページ5

春、桜も舞落ちてしまった4月の頭。入学式が行われた体育館からぞろぞろと戻りながら、一人の男子高校生は早速出来た友人に話しかけた。


「なぁ、俺らの担任、めっちゃ無愛想やんな？」
「なー、ホンマ。なんつうんやろ、能面みたいよな？」


朝、やっと始まった高校生活。楽しみにするのはクラスメイトと勿論担任。どんな美人教師が待ってるやろな、と足を弾ませながら高校に向かえば、いたのは眼鏡のくそ真面目そうな女教師。

どちらかというと可愛い系…のように見えるが、なにしろピクリとも笑わない。その男子高校生ならず、クラスの全員が思わず固唾を飲んだ。

この後の自己紹介どうなんやろ…と一抹の不安を抱えながら、真新しい制服に身を包んだ高校生たちは教室へと重い足を進めた。













「皆さんのクラス担任になります、宮Aと言います。宜しくお願いします」


予想的中、と男子高校生は心の中で嘲笑った。矢張りこの女教師、笑顔というものを知らないらしい。口周りはそりゃあ喋るから動くわけだが、どうにも他が動かない。


「担当教科は世界史、好きなスポーツはバレーです。何か皆さん質問はありますか？」


ロボット。ロボットか！関西人の血が騒ぎ、思わず全員が心の中で突っ込む。台本を読んだかのような早口な自己紹介に呆気に取られてしまう。



「せんせー。せんせーは彼氏おりますか？」



その中で一人の所謂"お調子者"が手を挙げてそう問いかけた。思わぬ質問に「お前やったな！」と全員がその男子高校生を見た。それから全員の視線が担任へと移────────った途端、全員目を丸くした。



「…い、ません」



少し頬を赤らめて、担任は恋する乙女のように顔を俯かせてしまったのだ！なんという展開。教室の空気が揺らぐ中、慌てた男子高校生は手を挙げる。


「はい！じゃあ旦那さんはおりますか！？」


「お前なんちゅうことを…！」全員の視線がそう訴えかける。すると、担任は「…ます」と小さく呟く。






「います。旦那さんが」






なんとか振り絞った小さな声で、担任ははっきりとそう言った。羞恥心からか、小さな肩がぷるぷる震えている。

これには流石に、男子も、そして女子も、心を打たれた。




(なんなん、ごっつ可愛えぇやんか…！)




つい先程まで担任に持っていたイメージが180度転回する。先入観ってあかん言うけどわホンマにあかんわ…！


高校一年生、入学早々早くもそう学習した生徒たちであった。

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