その素顔、俺に見せて【宮治】

目に見えないもの ページ18

二人が別の場所へ移動したのを見届ける前に、治が「ん」と一口サイズに切ったケーキを差し出してきた。


「えっ、こ、ここで？恥ずかしいよ」
「あーんなんて今更やんか。A、来賓さんの相手して全然食べてないやん」


ほら、と促す治に、躊躇いながら口を開けるとケーキが口に入れられる。甘すぎない生クリームと、噛んだ途端広がるフルーツの芳しさに、思わず目が輝く。


「美味しい…！」
「せやろ。他にも色々あるから、一緒に食べようや」


真っ白なタキシード姿で優しく微笑む治に、心臓がとくんと高鳴る。改めて見ても、背の高い治は本当に花婿姿が似合っていて。ウェディング特集記事のモデルとして駆り出されてもおかしくないほど決まっている。

「式、緊張したね」とか「えぇ天気で良かったな」とか、そんなちょっとした会話をしながら二人、食事を取って。

そのうち「これから毎日こうやって一緒にめし食えるんやな」と治がしみじみ呟くものだから「もう同棲してるじゃない」と笑うと、治は「せやけどな」



「今までとはちゃうやん。もうただの恋人やない。家族やもん。俺ら二人の間の、目には見えんもんが深まったやろ？」



家族。形のいい治の唇が紡いだその単語は、私達にはあまりにもむず痒くて、それでいて幸福なもの。

目に見えないもの。そうだ。治の言う通り。これまで一緒にご飯を食べてきて、これからも一緒にご飯を食べていく。それはきっと、一見同じこと、同じ時を過ごす事のように見えて、違うんだ。


「…ふふっ、治が素敵な事言った」
「今日は気持ちが緩んでしゃあないねん」


やっと俺の奥さんになったんやもん。そう目を細めてはにかむ治に、胸がじんわり熱くなる。

「やっと、本格的に宮Aになれて私もすごく嬉しい。ずっと傍にいようね」
「あんま可愛いこと言わんといて。ずっとずっと一緒や」

そう微笑んで見つめあっていると、不意にそんな穏やかな空気には不似合いな人口音がした。その方向を見れば、カメラを構える角名の姿が。


「はっ、ちょ、角名！？」
「俺アルバム担当だから」
「え、カメラマンさんがいるじゃない」
「いや、角名さんもどうですかって言われて。いやー、いい顔ですネ。二人とも」


戸惑う私たちに構わず連写する角名に、顔を赤くして治が制止をかけて────────そこへ侑くんが加わって、それから銀島くんが止めに入って。

さらに北さんが正論パンチをかますところまで、私は終始笑みを零してしまった。

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