包み込んで ページ16
今日を厄日と言うには簡単すぎた。
この日のために寝る間も惜しんで準備したプレゼンは、会議室が不備で使えなくなり、中止。悔しく上司に「レジュメだけでも」と見てもらえば、ため息を吐かれただ「やり直し」の一言。
朝からその事がショックで引きずり、担当案件の書類に紅茶をぶちまけた。そのときに傍にあったお気に入りのポーチにも掛かり、汚れてしまった。おまけに、今朝の上司から「明日までにやっておけ」と理不尽に仕事を手渡された。
そのお陰で帰りは22時36分。駅から家まで歩く気力もなく、フラフラとタクシーに乗り込む。
「お疲れですねぇ、お客さん」
「…はぁ、そうなんです」
距離近いからな、いくらだろ。なんて目疲れで痛い頭を働かせていると、運転手さんが鏡越しに此方をにんまりと見詰めていた。
「私が癒して差し上げましょうか？」
「っ降ります！」
手元に用意していた千円をばん、と叩きおいて私はすぐさま鞄を抱き抱えて走り出した。
気持ち悪い。気持ち悪い。全部、全部気持ち悪い。
早く帰りたい、寝たい、お腹空いた。そんな弱みばかりが心の内から湧き出て私を飲み込もうとする。
決して綺麗とはいえない階段を登って3階に上がり、1番手前の部屋の鍵を開けて転がり込む。
「はぁ…」とため息をついて靴箱に手を付くと「おかえり」と聞きなれた声が。
「──────え？」
「やっほ、お邪魔してる」
軽く手を挙げて笑っているのは、皆のヒーロー様であり、私の彼氏様。そういえば電気付いてたんだ、なんて疲れた頭で認識して、慌てて私は靴を脱いだ。
「た、ただいま。来る時言ってくれたらいいのに」
「あれ、今日は連絡したよ。この間のバレンタインで習ったからね」
不思議そうな顔をする啓悟に、顔が青ざめていくのが分かった。今日は朝からてんてこ舞いだったから、スマホをチェックする暇など無かったのだ。
「そうだったっけ、ごめん」
「ん、いいよ。それよりかさ、お風呂沸かしといたから入っといで」
ささ、と背中を押してくれる啓悟に涙が出そうになる。やだなぁ、本当なら一人でヤケ酒でもしようと思ったのに。
そのときの私は「ありがとう」と掠れた声で呟いて、下手っくそな笑顔を貼り付ける事しか出来なかった。
当たり前のようにバレンタインのお話投稿して申し訳ございませんでした(リクエスト途中のくせにすみません。書きたかったんです…！)
今回のお話とリンクしてます！
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ミラージュ - あろまさん» リクエストお願いします。ホークスが個性事故に遭って、吸血鬼になり、主人公の血を吸うストーリーをお願いします。ご執筆頑張って下さい。お待ちしています。 (2022年1月31日 23時) (
レス) id: d117aee842 (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 一気に読ませて頂きました！ 心情の表現がキレイだったり、文やお話に惹かれました。 他の夢も楽しく拝読させて頂いてますが♪ホークスのみの短編もステキです(*´ω｀*) (2020年5月4日 7時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - レインさん» こちらこそリクエストありがとうございました！シリアスしか思いつきませんでした（笑）シリアス得意なんです…！ですがお気に召して頂けて良かったです！ (2020年3月20日 15時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
レイン - リクエスト消化ありがとうございます！ギャグか甘々嫉妬系になるかなって思っていたらまさかのシリアス！とんだ誤算です…(いい意味)素敵なお話ありがとうございました！ (2020年3月18日 3時) (レス) id: b07e3f90c5 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - あっぷるぱいさん» こちらこそリクエストありがとうございました！あまり甘やかせなかった気がしたのですが、お気に召して頂いて嬉しいです！ (2020年2月14日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あろま
| 作成日時：2020年1月20日 21時
