コイ ページ49
────────あ。
教室に忘れ物を取りに来た足を止める。隣のクラスから聞こえる女子たちの声は、普段とは違って威圧的。
(この声、中島…？いじめか？)
ちら、と教室を覗けば、中島たちに囲まれていたのは佐原だった。瞬間、心臓が凍ってバクバクと動き出す。こんな場面、よく見るし在り来りだけど、被害者が佐原となれば別だ。
飛び出すにも飛び出せず、試行錯誤していると、震えた中島の声が聞こえた。
「あ、アンタ…、宮くんたちが、アンタの前でどんな顔してるか、知らないの…？」
思わぬ台詞に、それまで煩かった心臓が止まったような気がした。その台詞が意味することなんて、俺でさえ分かる。本人以外は、分かるんだよ。
「────────佐原！」
思わず、出入口から大声で名前を呼べば、中島たちは顔を青くして凍りついた。「ちょっと、用あるんだけど」と呼べば、佐原は駆け足で俺のところまでやってくる。
そのまま動く足のままに進みながら、混乱した頭を必死に動かして上手い台詞を作り出そうとする。
「…や、用は別になくて。危ない雰囲気だってから、なんていうか」
「…ありがとう」
佐原は此方を向かない。俯いたまま、小さく呟いたその表情は分からない。余程怖かったんだろうか。「大丈夫？」なんて誰でも言える言葉をかけようとしたとき。
「…ねぇ、角名」
掠れた、小さな呼び声。小さな足が止まると同時に、俺も名残惜しく足を止めた。
「宮くんたち、二人は、侑くんと治くんは、私の前で、どんな顔してた…？」
やっと此方を向いた佐原は、困惑していて、訳わかんないっていう顔をしてた。でも泣きそうに顔を歪めて、助けを請うような目で、俺を見つめる。
それは、やっと気づいた顔。二人の表情が、友情に依るものではないと。侑と治が、どんな想いを込めて自分に表情を見せていたのかに。侑と治が、自分に向けているその感情の名前に。
「…今の、俺みたいな顔じゃない?」
────────馬鹿。違うだろ。二人が向けているのは、いとしい人を見る顔。俺の顔は、違う。
もっと醜くて、苦しげな顔だ。どうしたらいいか分かんないって顔だ。
佐原と同じ顔してる。気づいた顔。気づいてなかったものに気付かされた顔。
────────これは、恋になり切れなかったコイだ。
恋になる前に、砕け散った残骸。そのとき、俺の中で密かに芽生えていたコイは、恋になる前に枯れて消えた。
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あろま(プロフ) - きのこりさん» 分かりずらくてすみませんでした。ありがとうございます！これからも頑張ります！ (2020年4月17日 11時) (
レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - きのこりさん» ご指摘ありがとうございます！ここなのですが、夢主が侑が何故自分を誘うのか分からず、「普通なら治くんを誘うのでは？もしかして治くんが映画が嫌いなのかな？」と思って「治くん映画嫌いなの？(だから治くんじゃくて私を誘うの？)」という意味合いで聞いています！ (2020年4月17日 11時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
きのこり - ページ36の虫除けで、夢主が「治くん映画〜」てあったんですが、侑くんの話なので、侑くんじゃないでしょうか……。最近この話を知りました。とても楽しく読ませていただいてます。これからも頑張ってください。 (2020年4月16日 22時) (レス) id: b4f9762f22 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - アオさん» やー！本当に申し訳ないです！！確認して直しました！指摘ありがとうございます！ (2020年3月14日 22時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - あの、以前私が治くん視点なのを侑くん視点と勘違いした話なのですが、夢主の呼び方が「佐原」だったので勘違いしたので、直した方がいいと思います。今更ですみません。 (2020年3月14日 22時) (レス) id: eee0ca23b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あろま
| 作成日時：2020年2月19日 23時
