その能面、俺が剥がしたる【宮侑、宮治】

見とけ ページ33

人、人、人、人、人の群れ。

勿論全員女。勝手に作られたファンクラブのお手製うちわ持った女が多数と、残りは地味な女。

3方の体育館ギャラリーをアップしながら探し──────。


「あ、おった」


佐原が、同じクラスの伊藤と並んで立っとる姿を発見した。ファンクラブの面々に追いやられて端でこじんまりしとる。


「Aちゃんおったな」


ボール片手に近づいてくるサムの言葉に、眉根を寄せる。


「は？」
「いや、Aちゃんおったなって」
「なんで名前呼びや」
「理由なんかあらへんわ」
「いつからや」
「いつやったっけな」


わざとボケるサムに思わずボールをぶち当てると、サムもやり返したきよった。

「またツインズ喧嘩してる！」なんて笑うギャラリーの声なんて気にせんでおると、監督とコーチと共にやってきた北さんに仲裁をくらった。


「練習試合なんやから、お前らきちんとせぇや」
「…すみません」


有無を言わさぬ北さんの説教を受けながらも、頭ん中はサムの言葉ばかり。Aちゃんて、なんでや。いつからやねん。

下の名前で呼ぶなんて、どう考えたって距離が近くなった印や。元から繋がっとった二人の間の糸が、濃く、色づいてく気がしてムシャクシャする。

不貞腐れながら佐原を見れば、口パクで「が ん ば れ」と言っとった。それだけで、ムカッとしとった気持ちが落ち着いて、和らいでく。



(サムなんか目に入らんくらい、活躍したるかんな)



『ち ゃ ん と み と け や』



口パクで言って二っと笑うと、勘違いしたファンクラブの面々が「なになにー？」と騒ぎ出した。そんな中、頭に疑問符浮かべた佐原の阿呆面に笑てしもた。








練習試合の相手は浜階高校。県内上位の高校で、兎に角ブロックが強い。何回かアランくんのスパイクがドシャットされたことがある。


(慎重に。的確に。素早く)


スパイカーが最も打ちやすいトスを、流れを、創り出す。それがセッターに課された役割。俺がチームの為に出来ること。


──────あ、今日えぇ感じや。


本日何十回目のトスか。流れ滴る汗を感じながら、己の指をゆっくり上げる。

応援の声も、歓声も、試合中はなんも聞こえへん。やけど、佐原は確かに、ここにおる。ここにおって、俺を応援して、見てくれとる。




(見とけよ、ホンマ)




そんな願いを込めて上げたトスは吸い寄せられるようにアランくんに届き──────。

3枚ブロックを勢いよくぶち抜いた。

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