他人の振り ページ8
緊張と不安で身体が重くなり、地面が足跡型にめり込んでいるのが分かる。1歩、また1歩と列が進み、友人の番になってしまった。
「君いつも来てくれるよね。ありがとう」なんてにっこりスマイルを浮かべるホークスに友人はすっかり「きゃー！」と手を握り返していた。
(どうしよう…、お願い、他人の振りして…！)
いよいよ自分の番に回ってきて目と目が合う。
「あ…」
びく、と自然に肩が揺れた。ホークスがちょっと目を見開いてから口を開く。
(お願い──────)
そう心の中で願いながら、ぎゅっと目を瞑って、私は身体を強ばらせた。
「初めまして！今日は俺の為に来てくれてありがとう」
からっとした声がやけに響いた。普通の音量だったのに、耳を通って身体の奥、脳髄まで響いて衝撃を与える。
瞑っていた目を開くとホークスは爽やかな笑顔を浮かべながら手を差し出してくる。
「は、初めまして…」
返さないと不自然だ、と手を差し出しながら挨拶を返すと彼をは"当たり前のように"笑った。
「これからも応援よろしくね」
なんとか笑顔を浮かべると、すっと手が離れる。必要以上に言葉を交わさずに、私の番は終了した。
(あぁ、良かった、何事もなくて…)
意気揚々と歩く友人の後に続きながら野外会場の出口へと歩を進める。
良かった。スキャンダルになったらお互い困るのは明白なんだから。
望んだことなの。そうしなくちゃいけないの。
なのに。
『初めまして！』という爽やかな他人行儀な声と笑顔が。
私の胸をほんの少しだけチクリとさせた。
「ありがとね、今日」
夜ご飯時、もりもりご飯を食べる啓悟にそう言うと啓悟は首を傾げた。
「ん？あー…、握手会のとき？」
「他人の振りしてくれて助かったよ」
あはは、と笑いながらそう言う私の顔を啓悟はじっと見つめる。
「…本当、嘘下手くそだね」
「え…？」
「知らない振り、俺もちょっとキツかったよ。だけどAがあんまりにも戸惑ってたから」
いつもより静かな啓悟の声はじんわりと胸に染み込んで。カチカチに固めていた心をやんわり解きほぐしていく。
「…ごめんね。傷つけたね」
許して、なんて貴方が謝る必要ないの。
それなのに啓悟はわざわざ席を立って、泣きそうな私の頭に手を置いて。
ごく、と涙と共にご飯を飲み込む。それから思いのままに啓悟に抱き着くと、衝動で啓悟が仰け反って床に頭をぶつけたのは、ここだけの話。
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おちゃきち(プロフ) - イッキ読みさせていただきました！あとがきにある、ホークスの恋愛観、めっちゃストンときました。凄く記憶に残るとっても濃くて良い作品だなと思いました。素敵な作品を書いてくださってありがとうございました…😭 (2021年10月15日 12時) (
レス) @page48 id: 78dc48b955 (このIDを非表示/違反報告)
かよ(プロフ) - めっちゃくちゃ面白かったです！！！最高です！！本当にありがとうござます！！これからも応援してます！ (2020年7月5日 14時) (レス) id: a82fd268db (このIDを非表示/違反報告)
紅波 - もう既に書き終わっている状態で一気読みしました。もう最高です。どこからこんなに素敵な小説が出てくるのか知りたいです...。応援してます！ (2020年6月5日 8時) (レス) id: 2ce5490af6 (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - 少し覗いていない間に完結していて驚きました。この2人には一生2人で飛んでいてほしいですね。(クルーズ船に乗ってる人になりたい)何はともあれ(？)完結おめでとうございます！素敵な作品をありがとうございました！ (2020年5月17日 16時) (レス) id: eee0ca23b5 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 花帆さん» コメントありがとうございます！そんな風に言って頂けて嬉しいです！ホークスをとびきり幸せにできて私も大満足です…！閲覧ありがとうございました！ (2020年4月28日 8時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あろま
| 作成日時：2020年1月2日 22時
