大岩桐草:冨岡義勇 ページ41
『Aさんは旦那さまに愛されて幸せねぇ』
近所でお茶をするとき、奥様方は必ず口を揃えてそう言うのだ。一人が言うともう一人が『本当、本当』と同調する。傍から見ればおかしな光景である。
『大事にされてるのね』『その簪素敵ね』と口々に言うものだから、Aはもう慣れてしまった。
「…まぁ、こんな時間だわ。私これで失礼致します」
ぺこり、歳上の 奥様方に頭を下げると「またお茶しましょうね」と高い声が響いた。
頂いたお土産袋を手に持つと、すぐに大きな手にひょいと持たれてしまった。手から落ちないように、と柄の部分を強く握りしめていたというのに、どういう訳か隣を歩く男の手に収められているではないか。
「──────もう、榊さん。このくらい持てるわ」
背の高い、ひょろりとした隊服を着た男は榊といって、階級丙である。
Aの旦那である冨岡義勇の部下であり、日々彼女の護衛として付いているのだ。
「いえ、冨岡様には"重たいものは持たせるな"と命じられております故」
義勇とはまた違った意味で榊は寡黙な男であった。真面目故なのか、そうではないのか。表情が乏しくて時々Aは「あら」と意思が汲み取れなくて困ることがある。
「これくらい持てなかったら私、何も持てなくなってしまうわ」
「そうしたら私が運びます」
Aの戸惑いを含んだ言葉を榊はサラリと交わしてしまう。義勇が口下手だとすれば、榊はただ単に寡黙なだけだ。必要以上の事は極力口にしない様にしているようだ。
どうにも無駄に甘やかされているようで、Aはむぅ、と眉を顰める。
「私が義勇様に言っておきます。私、嫌なのです。
喋よ花よと愛でられるのは嬉しいことではございますが…」
義勇と夫婦の仲になってからというもの、Aは苦労という言葉を忘れてしまった。
家事全般は屋敷に仕える召使いが行い、出かける際は榊が護衛兼、荷物係として着いていくのだ。
まさに"愛妻"と称される程の厚遇。そして他人からすればため息が出るほどの華やかな日々。
これは全て義勇が「お前は何もしなくていい」と告げた結果であったが、元より売れない商人の娘であった苦労人のAには幸福でもあり、同時に苦痛でもあったのだ。
真っ直ぐ、ほんの少し下駄を上げて背伸びをするAを、榊はひょろ、と首だけを動かして覗き込む。
いつもの様にじっと見つめる深紫の瞳に、躊躇いながら見つめ返した。
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時