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「…貴女をお慕い申しております。こんな気持ち、間違っているのは分かっています」
ぐぐ、と手首を握る力を強めて彼は身体を寄せる。着物と袴とが擦れる程に、距離が近くなって息遣いまで感じられる。
それまで冷静だった心臓がその台詞を合図にして大きく波を打った。
目の前にいる少年は、最早少年の顔では無くなっていた。自らの煩悩に苦しみ、踠く一人の人間の表情をしていた。
「でも、もう…この想いに嘘は付けないのです」
「千寿郎くん…」
消え入りそうに弱みを吐き出す彼に胸が締め付けられる。泣きそうな切なる声音に、私の目尻がじぃんと熱くなった。
「あぁ、俺は本当におかしい。こんな気持ちを持ってしまって…お許しください、どうか…」
袴を握りしめていた千寿郎くんの腕が伸びる。いけない、いけないと思いながらも、私は彼に身を委ねた。
気持ちが昂っているのか、彼の体温はまるで燃え盛る炎のようだった。先程、夢に見ていた豪炎の様な熱さ。身体の芯まで焼けいるような煉獄の炎。
そうして、その熱に取り込まれた私の耳にそうっと顔を寄せて、彼は
悲しんでいる貴女が、狂おしいほど愛おしいのです
「──────え?」
本能的に命の危険を感じて身体を離そうとしても、強い腕の力に逃げることが出来ない。
私の身体を締め上げる勢いで抱き締めながら、彼は頬を上気させて言葉を続ける。
「おかしいですか?ふふ、おかしいでしょう。俺は貴女が悲しんでいると嬉しいんです。貴女が兄上を想って絶望している姿を見ていると嫉妬と憎悪で狂いそうになるのにその姿をずっと見ていたいと思うのです。
泣いている姿を見ると熱に浮かされたように興奮します」
恐怖で力の抜けた身体は、すぐに押し倒されてしまった。はくはくと金魚のように口を開く私の頬を両手で包んで恍惚な表情を浮かべる。
「あぁ…、悲しむお顔も素敵ですが、恐怖に怯えるお顔も美しいですね…」
「やだ…、助けて、助けて、きょうじゅろうさん」
涙が頬を伝って敷き布に染みを作る。千寿郎くんはあまりに優しい手つきでそれを拭いながら囁いた。
「貴女を愛しております」
竜胆:悲しんでいる貴女を愛する
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時