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反対側を向いたまま静止する彼の表情は見ることが出来ない。
「今だから言うけれど、私は義勇に愛されている自信がないわ。
そして、これからずっと貴方を愛し続ける自信もない。
…ごめんなさい。だからもう終わりにしよう」
今だに鍛え上げられた背中が何もものを言わないから私は安堵したような、残念なような複雑な気持に駆られた。
(あぁ、でもこれでお互いケジメがついた)
そう結論ずけて私はす、と立ち上がる。そうして襖に手を掛けた、そのときだった。
どん、と真横に手がついた。
あまりの勢いに襖が手形に凹みを作った。後ろから伝わる熱気にごくり、唾を飲むと上から雫がぽたぽたと流れた。
「──────待て」
雫、それは義勇の汗だった。頬をほんの少し掠めたその雫を、私は汚いだなんて思わなかった。
「ぎ、ゆう…?」
「…」
怖い、そう思うより驚いた。こんなに彼の存在が近くにあるのは久方振りだ。
なんて言うのだろう、と沈みかけた乙女心が反応して胸が高鳴る。
「俺も、お前の愛を信じていない
お前が好きなのは俺じゃないだろう」
先程の焦りを含んだ呼びかけとは異なった、悲しみに満ちた声音。ちっとも予想しなかった義勇の言葉に何を返したらいいか分からない。
「錆兎」
随分聞かなかった名前に、心臓が止まりそうになる。ひゅっと動揺が口から息となって漏れた。
「お前が好きなのは…、錆兎だろう?」
重い息と共に吐き出された言葉は胸が締め付けられるように切なくて。仕舞っていた記憶を自然と思い出した。
錆兎。それは最終戦別のときに唯一命を落としてしまった少年。
そして──────私の家族でもあり、私の想い人でもあった人だ。
鬼によって全てを失い、途方に暮れていた私を鱗滝さんの元へ連れてきてくれたのが錆兎だった。
義勇と錆兎と私。私たちは同い年で共に鬼殺隊員になろうと日々努力した。
幼い子供にも恋心は生じる。私は錆兎を好きになった。彼の逞しい精神が好きだった。彼の力強い声が好きだった。前に立つ背中が、好きだった。
なのに、なのに──────死んでしまった。
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時