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鬼の爪で切られた足はぱっくりと肌が裂け、血が伝って落ちていく。
人間、恐怖が一定値に達すると脳みそも手足も役目を果たさないことを、このとき初めて知った。
「あぁ、美味そうな匂いだ…。肉付きも程よくて…柔らかそうだなぁ」
じゅるり、飢えた鬼が舌舐めずりをする。
「あ、ぁ…」
そんな情けない声しか出ない。頭に浮かぶのは、鮮明に映る貴方の笑顔。
(きょうじゅろう、さん──────)
いま、貴方の元へ。
そう諦めて目を瞑った、その時だった。
素早い音とともに、空を切り裂く男。ぴちゃりと頬に生暖かいものが飛び散って、はっと目を開けた。
するとすぐそこまで来ていた鬼の身体は倒れ、赤黒い靄となって消えていく。
その鬼を切ったであろう──────鬼殺隊の隊服を着た男性が刀を鞘に収める。するとすぐに私に駆け寄ってきた。
「もう安心だ。怪我は…」
私の足の怪我に気づくと、男性は隊服から包帯を出して足をきつく縛った。まだ恐怖で身体の動かない私はされるがまま、ぼうっとしながらその様子を眺めていた。
「屋敷で手当しよう。ちょっと失礼」
男性は軽々と私を横抱きにすると走り出した。あまりの疾走速度と突然のことに目を見開く。
そんな私の様子に気づいた男性が安堵させるように微笑んだ。
「もう大丈夫だ。安心するといい」
その男性の笑顔が、一瞬、杏寿郎さんの笑顔と重なって──────ポロポロポロリ、自然と涙が零れた。
それから屋敷で1週間ほど治療を受けた後、私は帰宅することとなった。男性は荻さんと言った。
屋敷に訪れては私を心配してくれた。どうしてもお礼がしたくて茶屋に行った。荻さんは明るく穏やかな人で、色んな話をしてくれた。
──────彼に惹かれるのは時間の問題だった。
人間の心は狡く、脆い。杏寿郎さんへの愛情が無くなった訳じゃなかった。でも、それ以上に安らぎと"確かな愛"が欲しかった。
ある日、自分が荻さんを杏寿郎さんと重ねていることに気づいた。耐えられなくなって正直に彼に全て打ち明けた。
自分が炎柱の煉獄杏寿郎の妻であったこと。
「それでも。それでも俺は、君を愛する」
泣きながら打ち明けた私を怒鳴りもせず、荻さんは抱き締めてくれた。
鬼殺隊員として鍛え上げられた身体は、否が応でも杏寿郎さんを思い出させた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
謝ることで──────"許される"と思っていた。
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時