雨傘の下で君を待つ【煉獄杏寿郎】

晴れと"現世" ページ46

──────終業のベルが鳴る。



「さぁ皆！今日の授業はここ迄だ！」



パタン、と教科書を閉じると生徒達は一気に俺の周りに集まってきた。



「煉獄先生！わからない所があるんですけど」


「先生！今日試合なので応援に来てください！」


「あぁ！皆順番にな！」



俺がそう言うと皆はまだあどけない笑顔を浮かべて順番に並ぶ。俺はもう一度教科書を開いた。



時は経ち、俺は"また"煉獄杏寿郎として生まれた。前世と、その前の記憶をしっかりと持って生まれた。




──────今度はちゃんと覚えている。鬼殺隊のこと。任務で死んだこと。Aのこと。




教科書をどれだけ遡っても鬼のことは書かれていない──────元々鬼殺隊の存在が非公認だったから、政府が揉み消したのだろう。


けれど、歴史から姿は消えても、俺の中には、血の中にはちゃんと残っているんだ。






(…しかし、何処にいるのだろうな)






生まれてこの方、ずっとずっとAの存在を追っている。それなのに全く会えやしないのだ。




(今どこで何をしている…。俺はここにいるぞ。君は何処にいるんだ)




そんなことをぼんやりと考えていると「先生？」と生徒に呼ばれてしまった。


「すまない！晩飯のことを考えていた！」と言ってみせると皆はケラケラと笑った。









「おい煉獄」


不意に後ろから声を掛けられた。振り向けば今日も今日とて奇抜な格好をした宇髄が立っている。


「宇隨か！どうした」


宇隨はのらりくらりとした様子で俺の肩に腕をやるとじっと見つめてきた。



「お前この間見合い断ったって本当か？」


「…む！なぜそれを知っているんだ」



見合い、というのは帳家──────つまり藤子とではなく、別の女性だ。


この世で藤子は他の男性と結婚して幸せな生活を送っているらしい。


今回の見合いは、ずっと独り身の俺を心配して親が設けたものであるが、頑なに俺が首を振ったため、行われることは無かった。



「風の噂でな。まぁ俺はこの学園の情報屋だからな」



宇髄は過去の記憶は無いらしいが、矢張り元忍びである。情報力に長けている。


それまで飄々としていた宇髄だが、急に面持ちを変えて口を開いた。



「…なぁ煉獄。お前もいい歳なんだから女の一人や二人作ったらどうだよ？」


「二人は駄目だろう！何を言っている！」



宇髄が心配して言ってくれていることは分かった。それでも俺が声を上げると「冗談に決まってるだろ」と笑う。

晴れと雨→←晴れと始まり

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す