ある鬼の過去の話 ページ40
ある夜の事、いつものように番傘をさして待っていると、二、三人の帯刀した男が現れた。
──────言うまでもない、鬼殺隊員である。
『お前が鬼か』
私を認識するなり、彼らは問答無用で刀を振るってきた。私は必死で番傘を抱くようにしなかまら家の中へ駆け込む。
『私は今まで人を食べたりしていない…!ただ、ただ、あの人を待っているだけなの…!』
『悪鬼め…、嘘を吐くか!あの人とは誰だ?鬼のお前に待つべき人などいるのか!?』
『あの人は…!』
鬼殺隊員の言葉にカッとして口を開いた──────のに、金魚のようにハクハクとしか動かせない。
『あ、れ…、あの人…あの人の名前…』
私は奥の自室へもつれながら駆け込んだ。その間にも鬼殺隊員はぞろぞろと入ってくる。
『あ、ぁあ…、そんな、嘘。嘘!名前が、名前が思い出せない…!』
屈託のない笑顔も、声も、体温も覚えているのに──────名前だけが思い出せない。
思い出そうとする度に頭が痛くなって、次から次へと彼との思い出が消えていく。
私は泣き叫びながら頭を覆った──────鬼になり、人を食わない代償として、私は記憶を失っていたのだ。
絶望する私に構わず、鬼殺隊員が刀を上げる。
『私は彼を待っているだけなの!お願い…、殺さないで…!』
──────そう叫んだ瞬間、記憶の中から彼の記憶が全て消えた。
真に絶望し、身体の力を無くした途端──────視界が大きく揺らいだ。
首を無くした自分の身体が倒れていく。もう身体は黒い煙となって消え始めていた。
『私は、私は……』
鬼殺隊員が満足そうに帰っていく。近くに落ちる番傘に手を伸ばすのに、手はもちろん届かない。
『ただ、貴方を、貴方を…』
──────愛していたの。
そう涙した途端、私の身体は風に吹かれて消えていった。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時