雨と十年間 ページ36
先程重なった唇が熱い。Aは無意識に唇に触れた。
まるであの人と初めて口吸いをした時のように熱かった。熱くて、溶けしまいそうだった。
「杏寿郎とあの人は違うのに…懐かしく感じるのはどうしてなの…」
杏寿郎と話していると、悲しみを、怒りを、寂しさを、苦しみを忘れてしまいそうになる。
太陽みたいに笑う杏寿郎は、雨の日でも傍にいると温かい。段々と彼は大きく成長していくのに、私は老いることもない。
貴方が殺すべき対象の"鬼"になってしまったときのまま。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
虚しくて、辛くて、涙が出た。
──────自然に謝罪の言葉が出たけれど、何に対しての謝罪か分からなかった。
雨が降る。静かな雨が。誰かの涙の様な雨が。止まらない涙が。
"俺"はあの道を歩いていた。煉獄家へと続く道。何度も往復したあの道を。
『杏寿郎!!』
後ろから呼ばれて振り向いた。そこには家から今しがた走って出てきたA立っていた。いつだったか俺が
『いってらっしゃい、杏寿郎』
Aはいつものように笑った。あまりに綺麗に微笑んだ。その見送りに、微笑みに、俺は知らず知らずのうちに救われている。
(嗚呼、矢張り、俺は──────)
『いってくる!』
大きく手を挙げて振って笑った。すると、Aは今度は安堵したような微笑みを浮かべながら手を振った。
姿が見えなくなるまで、何度も、何度も。
──────俺に手を振り続けていた。
あまりにも現実的な夢を見た。
目を覚ますと、時計の針は早朝の6時38分をさしている。
覚えのないやりとり。なのに既視感を感じる。杏寿郎はすぐに察した。
──────あれは煉獄杏寿郎が命尽きた日。Aと永遠の別れをした日だ。
日付を見ずとも杏寿郎は分かっていた。
──────今日は、あの雨の日、煉獄杏寿郎の命日である。
何度この道を歩いただろうか。初めてあったのが10歳の時…指で数えてちょうど十。
10年、もうAに出会って、Aを見つけて、Aに想いを寄せて10年経つ。
やけに静かだった。いつもの雨の日より、ずっと静かであった。まるで雨ができる限り息を潜めているようだ。
霧は薄く、すぐにAの姿が見えた。何も言わずに杏寿郎は隣に並んだ。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時