雨と本能 ページ35
どくん、心臓が大きく揺れる。全身が熱くなる。まるで全集中の呼吸を使っているように。
体内の血が、心が、燃えているのがわかる。
そんなことを囁かれて、そんな風に微笑みかけられ、勘違いしてしまうだろう。
(愛おしい、好きだ、抱き締めたい、俺が)
もう、"煉獄杏寿郎"になろうとするのは、辞めた。しかし、そうなれば俺は愛されない。Aは生まれ変わりの俺を愛してはくれない。
──────それでも良いのだ。とにかく、俺は、俺のままでAを愛したいのだ。
一瞬、藤子の微笑みが浮かんだ。結ばれてみせると誓ったのに、すまない。
かたん、音を立てて手から傘が落ちる。その音に目を向けるAに、1歩近づく。
その頬に手を添えて、驚き、見開かれる桜色の瞳を見つめる。
す、と頬を伝って指を顎で掬う。そこでAは漸くこの状況を理解したようだった。
「ぁ…」
その瞬間、見えた。頬は赤らみ、目は求めるような視線になった。
──────本能だ。Aの、本能なのだ。
人ならば誰しもがもつ、愛されたいという本能。
背を屈めて、目を瞑った。
──────ザァァア…
先程より強く降り出す雨の音。いつの間にかAの傘も地面に落ちていた。
重なった唇を離す。瞼をゆっくりと開けて見れば──────
「あ…、わ、私…」
Aは、杏寿郎に憤激するというより杏寿郎からの口吸いを受け入れた事が衝撃であったようで、信じられないというような顔をしていた。
そんなAの肩を掴んで、雨を全身に受けながら杏寿郎は想いを告げる。
「聞いてくれ、俺は貴方が好きだ」
その言葉にAは瞳を大きく揺らした。揺れる瞳で杏寿郎を正面から見つめる。
「貴方が好きだ、愛している。だから今口吸いをした」
想いのまま、そのまま、杏寿郎はありのままの言葉を続ける。
「ずっと貴方の傍で見つめてきた。一途に想い人を待つ姿も、その想いの深さも、時たま見える気を許した笑顔も…」
言葉になんて尽くせるものか。貴方の全てを知った。悲しすぎる過去も。嘆きも。
しかし、その瞳に映るのはいつだって俺ではない。煉獄なのだ。同じ名前で、生まれ変わりの男なのだ。
「──────俺を、見てはくれまいだろうか…」
抱き寄せた身体は冷たかった。ただ、それ以上に杏寿郎の心は燃えていた。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時