雨と自分自身 ページ28
「私は藤の花の家紋の家の子孫です。藤の花の家紋の家はご存知ですか」
「はい、鬼殺隊に命を助けられた家系で、支えてくださっていたとのお話は書物で知りました」
杏寿郎はそのとき成程と納得した。"古来よりお世話になっている"と言っていたが、そういうことであるのだ、と。現在でも恐らく何らかの形で縁があるのだろう。
藤子は京藤色の瞳で杏寿郎をじっと見つめたまま言葉を続けた。彼女の視線は人を惹きつける力を持っているのか、そう思うほどに杏寿郎は藤子の瞳から目を離せなかった。
「煉獄家は代々鬼殺隊員でありましたから、私の帳家と繋がりがありました。煉獄家の鬼殺隊員様は主に私の家で療養したりなさっていたそうです」
「そうだったのですね…」
という事は、あの炎柱であった"煉獄杏寿郎"も藤の花の家紋の家に世話になったということだろう。
そんな風に昔を想像していると、藤子は姿勢を更にピッと正して「杏寿郎様」と呼びかける。
「信じて貰えないかとは思いますが、私は生前の記憶を微かに持って生まれました。
──────杏寿郎様、私と貴方様は生前にもお見合いを致しました」
「何を言ってるんだ」そんな在り来りの台詞は、杏寿郎の口から飛び出なかった。
「……それは誠なのですか」
杏寿郎は知っていた。分かっていた。でも
「誠です。杏寿郎様、もうお分かりでしょう。貴方は貴方様は──────」
"煉獄杏寿郎"の命日にだけAに会えること。自分だけがAの姿を見れること。同じ名前であること。誕生日が同じであること。
──────見覚えのない鳩尾の傷跡が、今もこうして痛むこと。
それらは全て、全て。
「煉獄杏寿郎──────なのですね」
かこん。鹿威しが鳴る。先程まで心地よかった音はやけに胸に重く響いた。
小鳥もどこかへ行ってしまい、辺りを静寂だけが支配していた。
先程の快活な表情とは異なる、精悍な顔つきになった杏寿郎を見て藤子は目を見開いた。
「…思い出されたのですか?」
「いえ…、ただ、私の周りで不思議な事ばかりが起こるのです」
なので信じざるを得ません。と困ったように笑うと藤子は「そうなのですね」と何処か安堵したように微笑んだ。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時