雨と呪い ページ20
放った傘が雨に打たれていく。杏寿郎は降り注ぐ大粒の雨を受けながらAを見つめた。
「…めて…、辞めてよっ!!」
大きな声を上げてAがキッと此方を睨む。否、悲しげに、苦しそうに顔を歪めた。
その瞳には先程とは違う涙が溜まっていて。溜まりに溜まった涙が行き場を無くして流れていく。
「死んでない、死んでない、死んでない!
だって、だってあの人は!いつも私の元に帰って来てくれたもの!!」
そう力いっぱい叫ぶとAは嗚咽を漏らしながら肩を震わせた。雨はそれに伴う様に降り続けて杏寿郎の身体を容赦なく濡らしていく。
杏寿郎はなんと言ってていかわからなかった。
(俺はなんの支えにも…、助けにもなれないのか?)
どうしても言葉が届かない。それは俺が彼ではないからなのか。
杏寿郎は堪らなくなってその頬に手を伸ばした。せめて涙を拭って抱き締めようと、そう願った。
「や、だ…」
触れる寸前、嗚咽混じりの拒絶の声。
「もういい、もういいから…」
小さな拒絶に気づかない振りなんてできなかった。杏寿郎は少し躊躇ってから手を離した。
「…貴女を泣かせてしまったことを詫びたい。すみませんでした」
杏寿郎はそう告げて傘を拾い、くるりとAに背を向けた。後ろから雨に混ざってよく聞こえる嗚咽に、ぐ、と胸が掴まれたように痛んだ。
杏寿郎はいよいよ高等学校に進学した。この地域で最も有名な進学校へ進み、文武両道に励んだ。
この頃から同学年の女子から好意を告げられることが多くなったが、杏寿郎は受け入れなかった。
いつでも頭に浮かぶのはAの事だ。Aの事を思わない日はない。
(羽織と共にこの感情も置いてきてしまえば良かった)
いっそあの日に捨ててしまえたらどんなに楽だったか。けれども捨てることなどできない。無視することも叶わない。
最早これは呪いである。胸をどこまでも蝕む呪い。
「…いっ…」
杏寿郎は鋭い痛みに胸を押さえた。ちょうど心臓の下──────鳩尾の部分である。
突き刺すような痛みを感じるも、それはすぐに収まった。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時