雨と最悪の悲劇 ページ17
ザァアアと雨が強く降ってきた。雨が地面を強く打ち付ける音がやけに胸に響く。
(あの人は…、そんなにも彼を…)
話を聞いただけで伝わる。どれだけ二人が愛し合っていたのか。そしてどれだけ男の死に絶望し、それゆえ鬼へとなったのか。
「…ひでぇ話だろ？」
誰も報われねぇ、と旦那は零した。旦那はドタバタと急いで家へと帰っていく人々を見つめながらぼんやりと続ける。
「爺さん死ぬまで言ってたよ。『あれほど心から愛し合っていたのにどうしてだ』ってな。本当だよな…。でも誰も止められなかった。あれは最悪の悲劇だ」
最悪の悲劇──────本当にそうだ。なにせまだ悲劇は続いているのだから。
(…つまり、Aさんは自分が死んだことにも気づかず…)
彼がが死んだことも忘れて、否、信じずにずっとずっと、決して帰ってこない彼を待ち続けているんだ。
いつもぼんやりと、ずぅっと右へと続く道を見つめる桜色の瞳は。
──────最期に背を向けて任務に出掛けて行った彼の背中を追いかけているんだ。
杏寿郎は叫びたくなった。救いようがないことを知った。同じ名前を受け継いだ自分は無力なのだと思い知った。
「…まぁそういう事だ。坊主、この写真はやる。あとそれから今日はもうこんな天気だ。うちに泊まって──────」
「ありがとうございました…、お言葉ですが、帰らねばなりません」
杏寿郎は色褪せた写真を着物の内側へと大切に忍ばせて礼をしてすぐに出て行った。
「おい！」と後ろから旦那の呼び掛ける声がしたが、1度走り出した足は止まらなかった。
「俺は…、俺は、どうしたらいいんだ…！」
全てを知ってしまった。
なのにそれを解決する術を知らない。
Aさんを成仏させてあげて、天国にいる彼へ会わせる術を知らない。
写真に映るAの表情は初めて見たものだった。穏やかで、それでいて優しく、心から幸せのにじみ出た微笑みだった。
あれが本当の笑顔なら、姿なら、今まで杏寿郎に見せてきた笑顔は、姿は、偽物なんだ。
(どうして俺は彼のようになれないんだ。どうして彼の代わりになれないんだ)
寛容な心を持ち、快活で明るく、逞しい鬼殺隊の炎柱。
同じ名前であるのに、彼には遠く及ばない。その事が杏寿郎にとってはなにより悔しかった。
「くそ…っ、悔しい…！！」
杏寿郎のそんな苦痛に満ちた呟きは人を押し潰さんばかりの勢いの雨によってかき消された。
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あろま(プロフ) - ネコ２世さん» コメントありがとうございます！コメント遅くなってすみませんでした…！今までで1番と言って頂けて嬉しいです！こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました！ (2019年11月15日 18時) (
レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ２世 - 完結おめでとうございます！最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです！今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です！書いてくださりありがとうございます！ (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…！丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…！そう言って頂けて本当に嬉しいです！これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます！ (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます！読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…！私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…！これからも頑張ります！ (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あろま
| 作成日時：2019年9月3日 16時
