雨傘の下で君を待つ【煉獄杏寿郎】

ある幸福な女の話 ページ44

＊事後表現注意です！



──────Aはふと目を覚ました。ぼんやりする視界を二、三度瞬かせ、そこが杏寿郎の閨だと思い出した。


温かな体温と逞しい身体にハッとして寝返りを打つと、すぅすぅと眠る杏寿郎の姿がある。


先程の情事を思い出し、Aは「…っ」と声を鳴らない声を上げて顔をこれでもかと赤らめる。自然と痛む身体も先程の熱と快楽を思い出して火照った。


燃えるような杏寿郎の髪の毛は、月明かりを受けて輝いている。


寝顔はどこかあどけなく、先程までAの全てを自分の色に染め上げんばかりの勢いだった杏寿郎の男めいた表情とはまるで大違いだ。


深く眠りについたらしく、肩で息をする杏寿郎にそっと手を伸ばす。頬に触れ、起きないことを確認してからそっと手を添えた。


温かい。A自身、体温が冷たいため、杏寿郎の体温は余計に熱く感じた。──────まるで燃え盛る炎のようだ。




(あぁ、ずっと触れていたい)




頬が温かいことに気づいた。いつのまにか零れていた涙が頬を伝って枕に染みを作っていく。


Aは諦めたように微笑むと、杏寿郎の髪の毛に触れながら唇を開いた。



「ねぇ、杏寿郎。私今すごくしあわせ」



起こさないように、小さな声でひっそりと囁く。どうか起きないで。起きたら私、耐えられなくなってしまうわ。


足先の感覚がもうない。Aは自分が徐々に消えていくのが感じられた。



「ずっと杏寿郎にこうやって身も心も愛されたかった。やっと叶ったの。こうやって、貴方の腕の中で…」



あぁ、辞めて。まだこの人の隣にいたい。



「…本当は、ずっといたい。貴方と結婚して、子を産んで、温かな家庭を築いて…。そして、老いるまで、一緒にいたかった」



もう、腕の感覚が殆ど無かった。光となって身体が散っていく。Aはそっと無い身体を杏寿郎に擦り寄せた。



(温かい。しあわせで涙が止まらない)



Aは髪の毛を撫でるのを辞めて、杏寿郎の手を握った。強く強く、離さないように。もう二度と、離れないように。





「ねぇ杏寿郎。愛してる。愛してくれて、ありがとう。私の元に、帰ってきてくれて、ありがとう…」




あぁ、もう消えていく。杏寿郎の姿が見えなくなっていく。それでも、それでも。









「…生まれ変わったら……、今度こそは、ずっと──────」









Aがそう微笑んだ途端、姿は光となって消え、夜空に舞い上がって行った──────。

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