ある男の手紙 ページ38
こうして君に文を書くのは初めてかもしれないな。情けないことだが、なんだか緊張して筆を持つ手が震えてしまう。む、こんな事を知ったら君は笑うんだろうな。存分に笑ってくれ。俺は君の笑顔が大好きなんだ。
書くのに勇気がいった。君は俺をよく勇敢で逞しいと褒めるが、そんなことは無い。だからこの間俺は君を傷つけてしまった。「一緒にいられない」なんて言ってしまった己を呪った。
すまない、幾ら謝っても足りない。傷つけてしまってすまない。泣かせてしまって申し訳ない。
ただ、聞いて欲しい。俺の心の弱さを。
俺は鬼殺隊員で、今となっては有難いことに炎柱を務めさせて頂いている。皆の前に立つことが多くなり、その分だけ任務に赴いた。
…つい最近、同期が亡くなったんだ。その男には妻がいた。子供がいた。
妻は絶望して、聞けばその後命を絶ってしまったそうだ。その事を知って、俺は思ってしまったんだ。もし、俺が命を落としてしまったとき、君と家族になっていたら、君は一人になってしまう。君を何処までも嘆き悲しませてしまう。
だったら俺と一緒にならない方がいいのではないか。違う男の元で…、命を心配することの無い男と一緒になり、子を産み…その方が、君にとって幸せなのではないかと、少しでも思ってしまった。
そんな弱さ故、あんな事を言った。俺は君に関しては臆病なようだ。時々宇髄に君との事を相談していたのを知らないだろう。
結果、君を傷つけてしまったな。でも、傷つけてまでも、守りたいと思ったのは、
「Aを愛しているからだ」
霧が晴れた。雨が、止んだ。
Aはとめどなく溢れる涙を流しながら、ゆっくりと顔を上げた。
そこには、杏寿郎がいた。
煉獄杏寿郎、今も昔も変わらない、彼の姿。
(あぁ、そうだったの?そうだったのね)
杏寿郎も、涙が零れた。その文の続きを、杏寿郎は知っているのだ。
──────自分自身が、書いたのだから。
「Aが大切で、どうしようもなく大切だった」
「ひっ、ぐ、ぅ、きょうじゅろ、…っ」
「一緒にいられないなんて、もう二度と言わない。ずっと一緒にいたい。最初からそのつもりだった」
「ぅ、ゔぅ、ぁ…」
「俺は決して君を一人になんかしない。必ず君の元へ帰ってこよう。髪の毛が白くなって、衰えるまで、ずっと一緒にいよう」
「うぅ、ぁあ…っ」
「祝言を上げよう、A」
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時