雨と和泉屋 ページ14
着物、仕立て屋、和泉屋…。
散らばっていた断片がひとつになり杏寿郎はハッとした。
以前2つ離れた町へ出かけた時に【和泉屋】という着物の仕立て屋を見掛けたのだ。
同じ職種で同じ名前、偶然とは思えない。
「そこに行けばもっとあの人の事が分かるかもしれない」
杏寿郎はそう呟いて手布の埃を払って強く握り締めた。
杏寿郎はまた嘘をついた。家族4人で出掛ける日に仮病を使ったのだ。
杏寿郎を疑わない両親は行くことを躊躇ったが、杏寿郎は「大丈夫です」と押し通すと「ごめんなさいね」と謝った。
謝るのはこっちだ。なにせ騙しているのだから。
両親の後ろで弟が不安そうな表情を浮かべている。幼い弟に心配を掛けて、情けない兄だ。
大丈夫だ、というように微笑んで頷くと、安堵したように弟は頷き返した。
3人が出掛けるのを見送って、杏寿郎は支度を始める。
貯金箱を割って貯めていたお金をかき集める。2つ離れた町まで行くのに充分なお金だった。
何かあった時のためにと全て財布にしまい、杏寿郎は手提げ鞄を肩から下げて家を飛び出した。
2つ離れた町は杏寿郎の住んでいる町とは異なって活気に溢れている。所謂商人の町だ。
まだ伝統や風習の残る杏寿郎の町とは異なり、混凝土の建物が立ち並び、皆今どきの洋服を着ていた。
杏寿郎はその中を着物姿のまま大きく歩を進めて【和泉屋】を探した。時々人からの視線をチラリチラリと感じたが、杏寿郎は気にする暇もない。
大通りから少し離れた所に【和泉屋】は佇んでいた。昔ながらの木造の建物で大きな看板が特徴的だ。
中を覗き込むと夫婦らしき男女が丁度着物を仕立てている最中だった。
「お忙しいときに申し訳ございません!」
大きな声で呼び掛けると夫婦は驚いて顔を上げた。
「大丈夫ですよ、何かご用かしら?」
にこやかに出迎える婦人にどう説明しようかと戸惑っていると、それまで目を見開いていた旦那が婦人より先に杏寿郎の前へでた。
「坊主…、その特徴的な髪の毛の色は…、もしかして煉獄家のもんかい?」
「はい、煉獄杏寿郎と申します」
杏寿郎が名乗った途端、旦那は「そんなまさか…」と青ざめた顔で呟いた。
疑問符を浮かべる婦人を他所に、旦那は杏寿郎の手を引いて「入りな、女の"鬼"についてだろ?」
予想が的中し、杏寿郎はごくりと唾を飲んだ。そして覚悟を決めて「はい」と力強く返事をした。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時