浮いた ページ2
ずん、ずん、と身体が地面に埋まっていく。こんなに埋まったのは初めてかもしれない。
もう1メートルくらいは沈んでいる。あ、このまま行けば地殻を破ってブラジルまで行けるかも…。
そんな馬鹿なことを、思っていた。
「おねーさん何してんの?」
遥か上から降ってくる、爽やかで軽い声音。
上を向く力もなく、それでも沈み続ける私のすぐ近くに舞い降りて声の主はしゃがみ込んだ。
「ね、おねーさん。沈んでますけど」
「話しかけないでください…、このままブラジルまで沈むんです」
「いやいや、その前にマグマに到着しますよ」
変わった個性ですねーなんて軽い口調で男は隣のベンチに座った。
こんな夜遅くに女が1人で公園に。荷物は鞄一つのみ。察しがいいのか男は「家出？」と問うてくる。
「…浮気されて飛び出してきたんです」
「あっららー」
そりゃあ酷だね。なんて、なんにも知らないくせに。声からして若いイケイケ男子の声だ。恐らく今までの彼女は星の数だろう。
「どうして浮気されちゃったんですかね」
バタバタ、と男が足をばたつかせているのが分かる。どんどんと私の閉じ込めた心を無理やり引っ張りだそうとする、なんて男だ。
憎まれ口を叩きながらも、私は吐き出したかった。それほど心が落ち込んでいたんだ。
「…重すぎるんだって、私。好きだから尽くしてきたのに…」
通りすがりの男になんで。そう思うのに口は素直にするすると言葉を吐き出す。
「毎日お弁当作ったりとか？」
「…そう。彼奴がこっちに転勤したから一緒に着いてきた。
彼が似合うっていえばショートヘアにだってしたし、苦手なヒールだって履いた。
誕生日に手編みのマフラーだって渡したのに…」
「ふーん、なるほどね」
興味が無さそうに見えて、でも男は興味を持っているようだった。
男は遊ばせていた足を止めると、少し瞬く夜空を見上げて──────はぁ、と白い息を吐いた。
「俺は好きだけどな、尽くしてくれる女の子」
「──────え」
その言葉に、一瞬心が軽くなって、身体がずず、と浮いた。ふわふわ浮いて、地面から顔を出して──────男と目が合う。
「あ、浮いた」
楽しそうな声。なんで気づかなかったんだろう。散々テレビで聞いた声だったのに。
ベンチには──────大きな赤い翼を背中に、飄々とした笑みを浮かべるホークスの姿があった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 873人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
花帆 - 一気に読ませて頂きました！お互い一途な夢主さんとホークスにずっとドキドキして面白かったです！！ チャートも面白かったです♪ 続編も楽しみにしております(*´ω｀*) (2020年4月26日 4時) (
レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 鈩さん» コメントありがとうございます！いえ、私こそ遅くなってすみません…！そんな細かいところまで褒めて頂けて光栄です…！こちらこそ読んでくださりありがとうございました！ (2020年3月28日 23時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
鈩 - 完結＆続編おめでとうございます！(遅れてすみません…)文章や、単語一句一句にドキドキしてしまいました…！素敵な作品ありがとうございます！ (2020年3月11日 0時) (レス) id: 4f2f6e9221 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - くろかはさん» コメントありがとうございます！私自身実は夢主の個性気に入ってます(笑)浮き沈みするの可愛いですよね！とてもコメント嬉しかったです！ (2020年3月10日 15時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
くろかは(プロフ) - 主人公の個性がなんとも言えず可愛らしい…(すき) (2020年3月4日 20時) (レス) id: e34a9a5e9f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あろま
| 作成日時：2019年10月22日 15時
