五十五の雨粒 ページ10
途中に男の子の隊員が倒れていたのでそれをパッと軽く飛び越した。
すでに少女の隊士が木に鬼を追い詰めているな。上で鴉が何かを言っている気がしたが、もうそんなことどうでも良かった。
伝達なら後で聞けば良い。鬼を殺したその後で。
今は義勇と鬼に対する怒りでどうにかなりそうなんだ。切らせてくれ、さもなくば切る。切って切ってしまうから、切らせてくれ。
切らないと気が変になる。
──雨の呼吸 肆ノ型
普通の人間なら目で追うことすら叶わない私の突きは、確かに鬼の首を狙ったものだった。
しかし私の刀が貫通して鍔の手前まで迫っているのは、木の幹だけ。
少女の隊員がギリギリで私の剣に反応し鬼を引き避けたのだ。
どうしてこの子も鬼を庇うの?何故驚いたような顔をするの?
……そうかわかった、この鬼はきっと催眠系の血鬼術を使うんだな、そうして周りに自分を守らせようと……。
「あ、あの。伝令……」
「何かな、隊士の女の子。……蝶の髪飾り、もしかして蝶屋敷の子?君を傷つけるのは隊律的にも人道的にもダメだってしのぶちゃんに言われちゃうな、どいてくれる?」
「竹を噛んだ鬼を拘束して本部へ連れ帰るよう伝令が出ています」
「そんな訳がないよ。私たちが属しているのは鬼殺隊なのだから、鬼を拘束せよなんて伝令が下るはずはない。
きっと君はこの鬼の血鬼術で幻聴を聞いたんだ。己の身を守るために嘘をつく鬼だよ」
私は微笑んだが、彼女は困惑しているようだった。……焦れったいな。
私は幹に刺さった刀を引き抜くと、一振りしてその幹を切って倒した。ああ、脈が狂う。こんなに近くに鬼がいるのに、簡単に首を飛ばせるのに、できない。
「………………」
刀を振り上げるのを堪えることができるだけ、私は昔より成長しているのだろう。引き下がれなくなっている私と、少女の隊士の間に沈黙が流れる。
──そんな状況を打開できるのは、いつだって第三者だと決まっている。
「カナヲ!」
しのぶの声。目だけ動かしてそちらを見ると、先程まで組み付きをしていた二人がやって来る。義勇の姿を見てまた心が逆なでされる。
「Aさん、伝令聞きましたか。この鬼は拘束だそうですよ、切っちゃダメです」
「しのぶちゃんまでそんなことを言う。嘘だよ」
「冷静になってください、本当のことですから」
その後辺りにいた三羽の鴉から同じ内容を確認して、私はようやくそれが現実と理解した。
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作者名:紅丸 | 作成日時:2019年8月2日 17時