五十四の雨粒 ページ9
森を駆けている時、リン、という音がかすかに聞こえた気がした。私の鈴ではない。
……そういえば、もう到着していてもおかしくない頃合いだな。近くから殺気を感じ取ったのもあって私は方向転換する。合流して状況を聞こう。
ああ、あの少し開けたところにいるな。
しかし妙だ、鬼の気配はもう少し離れたところにある気がするのだが……人間一人の殺気がそこに留まっているようだ。
「…………あれ。これは一体全体、どういう状況かな」
辿り着いた私は多いに困惑した。しない方がおかしい。顔に出さなかっただけマシだ。
「ああ、Aさん良いところへ。冨岡さんが鬼殺の邪魔をするんです。鬼は向こうへ行ったんですけど……見ての通りで動けません」
ピクリと眉が動いてしまった。
そこにいたのは義勇と、義勇に組み付かれたしのぶ。彼女の細い愛刀はブッスリと義勇の半半羽織を貫通している。
しのぶは額に青筋を浮かべて……私が感じたのは彼女の殺気か。
「…………………………」
私は無言で、清々しい笑顔を作って見せた。
しのぶと義勇が息を飲んだのが分かる。
「しのぶちゃん、私が殺してくるよ。悪いけどもう少し彼の相手をしていてくれるかな」
「待てA、あいつは……」
この男の言うことを、もはや私は聞かなかった。まるでいないもののようにしのぶだけを目に映し、返事も待たずに持ちうる限りの最大速度でしのぶが教えてくれた方へ翔ぶ。
走るという言葉にはそぐわない。
一歩一歩が二間(約3.6メートル)はあるような、翔ぶような速度だ。
私の中で、冨岡義勇に対する明確な殺意が湧いていた。
しのぶが一言『鬼殺の邪魔をした』と言っただけ。けれどそれで十分ではないだろうか?
義勇は何を考えているのだろう。
鬼がどれだけ醜く愚かな化け物であるか忘れたのか。存在その物が悪なのであると忘れたのか。
何故庇う。気がふれた以外の理由が考え付かない。
──鬼は滅すべき存在でなければならない。
私が人へ抱く怒りを鬼へ一元化する為にも。そうでないなら、私は君を切って刺してしまうぞ、義勇。
『柱による鬼殺の妨害』
今まで考えたこともなかった事態に荒れる心を、深呼吸で何とか落ち着かせようとする。
見えた人影。
私はまだ遠いその背に向かって二本の日輪刀を抜いた。
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作者名:紅丸 | 作成日時:2019年8月2日 17時