八十六の雨粒 ページ41
葬儀に参列する知人などいない為、翌日には準備を調え即葬式、火葬した。遺体の見つからない少年も死亡扱いとする。
淡々と進められる作業。
感傷に浸る時間も与えられずに、ジャラジャラ飾りをつけた鴉がやって来る。天元の鴉だ。
間が空かなくて良かった。もし思い出を振り替える時間を与えられていたら、きっと鬼殺に集中できなくなる。
死者のことより生者のことを考えなければ。
私と共に遊郭に潜入する隊員を確保できたらしい。藤の家で準備を整えるので、そちらも用意でき次第向かってほしいとのこと。現地集合か。
街娘が好んで着るような綺麗な着物に袖を通す。喪服から一変して、色がうるさいと私は思った。
こういう格好をすると改めて隊服の素晴らしさを実感する。あれ本当に動きやすいな。浴衣の時も思ったが……普通の服というのは動きづらい上に防御力が低くて落ち着かない。不安だ。
髪に櫛を通し、結う。飾りを持っていないな……とあちこち代わりになるものを探していたら、前に天元に貰ったべっ甲の簪があるのを思い出した。
お前は地味だと渡された簪がこんなところで役立つとは。スッと差すとそれだけで大分華やかに見える。
最後に紅を引いて、小刀を隠せば私の準備は終了だ。長い方の日輪刀は天元が預かってくれるらしい。なんといったか……ムキムキネズミ?なる生物が必要な時には届けてくれるとか。
「これから数日屋敷に戻ってこれないけれどいつも通りに。緊急は鴉で」
雨屋敷を出るとき隠に声をかけるとぎょっとされた。……?化粧が濃かったか?
「えっ…………あ!雨柱様!はい、分かりました」
「…………その間は何かな?」
「い、いえ!ボーッとしておりました」
よく分からない。おかしなところがあれば天元が直してくれるだろうが、その前に間違いなく笑われるだろう。
…………。
鴉の案内の元遊郭までたどり着く。昼間でも人が多いな……。
一体どういう人間が集まっているのか知らないが、ここは他より死の黒いモヤが顔にかかった人がいる印象を受ける。
愛憎が渦巻いているというのか。チラチラ向けられる視線はとても気持ちいいものとは言えなくて私は足を速めた。
道の先に、人ごみから突き出て見える頭を発見する。分かりやすいな。彼はかなり身長が高いから探すのに苦労しない。
「おーい天元君!」
私は呼びながら彼のところまでたどり着いた。
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作者名:紅丸 | 作成日時:2019年8月2日 17時