五十の雨粒 ページ5
三日して、私は帰りの列車に揺られていた。あの地域でも随分鬼を切った。……増えすぎだ、馬鹿。
あの、鬼となった兄が死んで天涯孤独の身となった少年。頼れる親戚もなく、ずっと兄弟だけで必死に日銭を稼いで生きていたのだという。
その日を生きるので精一杯の暮し。
足が弱く、家で翌日の商品を作っていた兄、売りに行く弟。ある日帰ってみると兄が血まみれで倒れている。慌てて介抱していると、目覚めた兄に襲われる。
火事場の馬鹿力か、なんとか逃げて戸を外から塞ぐと、なんとそこから彼はずっと外で生活していたという。
彼は今、私の隣の座席に座っていた。
切符をもの珍しそうに持って、回ってきた車掌に渡す。
あの後、生きていく宛がないと泣きつかれてしまい大変困った。しかし落ち着くまで背をさすっていてやると、「鬼ってなんだ」だの「お前はなんだ」だの冷静に聞けるようになったのでかなり砕いて説明した。
すると「俺も剣士になる、にいちゃんみたいな人が罪を重ねる前に助けてあげたい」と中々見込みのあることを言う。
私は本当に久々に、育手のじいさま宛に筆を取った。
鬼殺隊に入ったらこの子の享年は間違いなく低くなるが、私には彼の意思を曲げる資格もない。
「そういえば、刀の刃に彫ってあった字、なんて読むんだ?」
「シッ!人のいる場所で刀の話をするんじゃない。捕縛される」
私は周りの様子を伺いつつ、小声で話す。こちらを気にかける人はいない。
「悪鬼滅殺……悪い鬼は必ず滅ぼすぞって意味だよ」
「かっこいいなぁ、俺もその字彫ってもらいたい」
「おお、まだ柄も握ったことがないくせに大きく出たな。じいさまの修行は厳しいぞ。それを耐え抜いて、生きて生きて生きて……君が柱まで登って来る日を楽しみにしていよう」
「柱…………?」
こうして剣士は増えていくのかな。
辛い思いをして、志を抱き。鍛練の日々を耐え抜いて、選別へ行き。傷付いて嘆いて、それでも立ち止まらなかった者だけが生きている。
私は少年に飴をやった。
ずっと兄弟で生きてきて、鬼という理不尽な存在がこの世にあるために、兄を失った。
そこにどことなく自分を重ねたのかもしれない。
きっとそんな話はどこにでもたくさんある。
たくさんあってはいけないんだ。
私は、鬼という存在そのものが許せない。
たとえ人を食っていようといまいと、関係なく。
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作者名:紅丸 | 作成日時:2019年8月2日 17時