八十四の雨粒 ページ39
「遊郭に潜入?」
天元が持ってきた話は面白いものだった。最初はいぶかしんで眉を潜めた私も、すぐに真剣な顔になる。
「鬼が潜んでいる可能性がある。今嫁が三人共潜入捜査してるが……連絡が取れなくなった」
「三人共?」
「そうだ。だが俺じゃ客止まり、深く立ち入った捜査ができねぇ。だからこれから女の隊員を集めるつもりなんだが……」
「元々女の隊員は少ないしね……急に動かせて、君が目をつけた鬼に対応できるほどの階級の子って何人いる?」
「とりあえず二、三人は探すつもりだ。……が、正直不安な面もある。だからお前の助太刀がほしい、小刀を常に隠し持てるお前の」
「なるほどね……」
同じ場所に何日も二人の柱がいるのはどうかと思うが……。お嫁さんの安否が不明で天元も焦っているのだろう。気がかりなことがあると刀は鈍る。
……同じようなことを杏寿郎にも小芭内にも言われて、今度は私が他人に対して思っている。
私はスッと息を吸い込んで、少し遠くにいた実弥に向かって手を振った。
「おーい、実弥君!今日から十日、私の担当区域も任せていいかなー!」
「アァ!?ふざけてんのかてめェ!?」
目を三角に吊り上げてこっちを来る実弥。ちょっと面白くてクスクス笑うと、私は天元に言った。
「いいよ。私お作法とか知らないからお店から追い出されるかもしれないけど、やってみよう」
天元は一瞬ポカンとした顔をしたが、すぐにニッと笑って「悪ぃな、派手に頼むわ」と頭を掴んできた。撫でているつもりなのだろうか?
残念ながらときめかない。小芭内は助けてくれない。
実弥が「さっき決めたばっかりの配置早速無視しやがってどういうつもりだァ」と青筋立てる。顔に似合わず真面目なんだよな、彼は。
天元が遊郭潜入の話を説明すると「こんなやつに務まるわけねェだろ何考えてんだァ」
自覚していても他人に言われると腹立つ。
「大体、二人分も回りきれるわけねェだろォが。元がこん詰めて割り振ってんのによォ」
「じゃあ小芭内君も協力してくれ二人で三人分の地域なら一人辺りの負担はさっきより減る」
「は?俺は忙しいんだが?」
「美味しい定食屋を紹介してあげるから頼むよ」
「物で釣られると思うなよ。で、それはどこだ。甘露寺は最近ハイカラな料理にハマっている、あるか」
「んー。親父さんに頼んでみれば案外いけるかもね」
楽しかった。お館様の元に集って皆でこんな話をすることが。
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作者名:紅丸 | 作成日時:2019年8月2日 17時