七十二の雨粒 ページ27
「まだ言いたいことがあります」
「随分多いね」
私は医務室に連れてこられて、しのぶの前に座っている。彼女は笑顔が怖い人だった。
「傷の深さを判断してウチに来たのは正しいです。けれど、来るのが遅すぎませんかね」
「いやはやごめんね」
「で、またウチが預かっている隊士を勝手に連れていこうとしましたね」
「現行犯を見てしまったものだから」
「そして竈門君と私闘」
「手合わせだよ」
「
「若手が私の動きを真似するもんだからビックリしたんだ。鬼殺隊の未来は明るいね」
しのぶは注射器を取り出した。説明なしに私の腕に刺す。手の感覚が無くなっていくから、麻酔だろう。
そして針と糸を用意し始める。
「貴方も程々にしないとお叱りを受けますよ」
「……もう落ち着いたと思ったんだけどね。彼を前にしたらまたぶり返した。ダメだった。
竈門炭治郎に、俺を拘束できないからって周りに手を出すのは卑怯だって言われちゃったよ」
「そういう意図だったんですか?」
「まさか」
しのぶは縫合を始めた。私は目を背けることなくその様子を見ていた。
「貴方が鬼を庇う人を嫌悪する気持ちは分かりますが……彼をどうしても許せませんか?あの時のように、鬼を家族だと言う竈門君を」
「見世物小屋の下弦……懐かしいね。カナエさんや実弥君と初めてあったのもそこだった。あの時とは状況が違うし、今後の彼次第かな。
それでも今は、竈門炭治郎が憎いよ」
「可能なら一度、彼と話をした方が良いと思いますよ。互いを知れば別の見え方もしてくるでしょう。竈門君、優しい子でした」
「優しいだろうね。妹思いのお兄ちゃんだもの」
「……私はこないだ、彼に鬼と仲良くする夢を託して来ましたよ」
私はあいている手でしのぶの手を掴んだ。作業しながら話してほしい内容ではなかったからだ。
「いつも思うけれど、その夢って何?どうしてしのぶはそんなことを言うのかな」
しのぶは驚いた顔をしたが、「まあそうですよね」と言った。
しのぶだって家族を鬼に殺されて憎いハズなのに、仲良くって何だ。
「元々は姉の願いだったんですよこれ。姉さんは……死ぬ間際でさえ鬼を哀れんでいましたから。私はその思いを継ぎたかったんです」
「…………カナエさんの」
しのぶは、私とは全く別の呪縛に嵌まっているようだ。
それほどまでに、兄や姉の存在というのは、下の子の心の中では大きい。
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作者名:紅丸 | 作成日時:2019年8月2日 17時