六十九の雨粒 ページ24
「食品の窃盗。あまつさえ、犯行を悔いず逃げ出そうとするとは笑止千万。
しのぶちゃんには後から断りを入れることにしよう。私はこんな隊士を野放しにできない、雨屋敷に入れる」
「ぎゃー！！痛い痛い痛い、折角元に戻った腕が千切れるゥーッ！！」
背中を踏み倒して手首を捻り上げると、金髪の彼は情けない悲鳴を上げた。なんだこいつ、耳が痛くなるようなうるささだ。自分の悪行を棚に上げて泣いて、まるで私が悪人のようだ。
「静かに。さもなくば、指を折るよ」
「ヒィーッ！！怖い！誰なのこの人！？」
「──何事ですか！」
騒ぎを聞き付けて人が集まってきた。あの二つ結びの女の子や………………ああ。
「どうしたんだ善逸！」
……竈門炭治郎。
鬼の妹はその場にいなかったが、私は露骨に殺気立ってしまった。
みっともないと、すぐに頬笑む。余裕を無くすな、いくら柱合会議で彼が実弥に浴びせた言葉が許せなくても。
私は善逸と呼ばれた少年を紐でキツく縛り上げながら話しかけた。
「こんにちは、鬼を連れた隊士竈門炭治郎君。今日もいい日だね。
……君も君の周りも問題児ばかりのようだ」
「貴方は…………。善逸を離してください、どうして縛るんですか」
「隊を乱す隊員を預かる権利が私にある、それだけのことだよ。しのぶちゃんに大分甘やかされているようだ」
「……俺が気に食わないなら、俺だけに向かってくれば良い！周りを巻き込むのは、卑怯だ」
「…………」
ピキッとこめかみに力が入った。
こいつ、私がしのぶに邪魔されて自分を雨屋敷に連れていけないから腹いせに、いちゃもんで仲間を連れ去ろうとしているとでも思ったのか？
そもそもお前が来るまで私はお前と金髪に接点があるのも知らない。
手紙が相当印象を悪くしたかな、けれどあれだって嘘は書いていない。
……どうも、竈門炭治郎には柱をナメているフシがあるようだ。
けれど、争いは御法度。取り締まる立場の私が動いては駄目だとグッと堪える。
私たちの間に、底知れぬ緊張感が走った。
「炭治郎さーん！訓練の途中ですよ、戻ってください！」
その時、パタパタと三人の女の子が遅れてやって来た。
「あ、雨柱様！しのぶ様にご用ですか？」
「うん、そう。……ねぇ、訓練って？」
「機能回復訓練の事です。今、訓練場で……」
「へぇ」と私は良いことを思い付く。パッと拘束した男の子を離してやり、竈門炭治郎に手を差し出す。
「竈門炭治郎君、私と訓練しよう」
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作者名：紅丸 | 作成日時：2019年8月2日 17時
