四十七の雨粒 ページ2
雨柱である私の日々は目が回るほど忙しい。
今日から三日はいつもより遠い地域を重点的に回るので、昼間から浅草に出て、さらに移動して列車に乗る。
遠征とでも言おうか。この国に逃げ場はない、どんな田舎に逃げようと追いかけて鬼を滅するのだ。
浅草という街はとにかく人が多かった。洋装の上品なお嬢さんや背の高い建物。どこを見ても飽きない。
ふと、何かを釣られるように建物の中を覗くと献血とやらをしていた。蝶屋敷でもこういうことはできるのだろうか、しているのだろうか。
私の血を献じると輸血された人が大変なことになりそうなので遠慮しておくが、今の技術はすごいものだ。
そこで作業をしている男女に何となく違和感があったのだが、気にするほどのものでもなかったので建物を後にした。
鬼なら、私がこれほど近くにきて稀血の匂いに気付かないはずがない。
多少なりとも「食べたい」という殺気を漏らしたはずだ。それがないならきっと鬼ではないのだろう。では問題なし。
サァッと吹いた風にチリンチリン鈴が鳴る。
見ると、もう長くつけているから紐がくたびれてしまっていた。妙な愛着があって、知らぬ間に落ちてしまうのは惜しいと思った。
適当に新しい紐を見繕うか。まだ使えそうなのでもうしばらくは使うが、代えを用意しておくのは良い心がけだ。
予定の列車までにはまだ時間があったので、店に入る。高そうで綺麗な反物を売る店は避けた。輝いて見えるところは少し苦手だった。
安い店で朱色の紐を見つけた。
柱になってからは鈴は直接小刀の柄に巻いていた。移動中はリンリン鳴るが、戦闘に入るとあまりの早さに音がついてこれず静かになる。
肉体的にも全盛期を迎えている私の剣速は最高だった。速さなら誰にも負けない自信がある。それが今の私の自慢なのだ。
そんな剣も都会に出ればこそこそ隠さなくてはならない。なんと生きにくい世の中なのか。
羽織りに刀を隠して列車に乗り込むと窓辺の席に座った。車窓の外、北の方から灰色の雲が流れてくるのがわかる。
折角今日は晴れだと思ったのに。
残念だ。今日もこの世は雨が降る。
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作者名:紅丸 | 作成日時:2019年8月2日 17時