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タルトもモカも想像以上に美味しかった。
これなら勉強も捗りそう。
こっちに来て1年経つと言えど、韓国語はまだまだ分からないことばかり。
大学の勉強もしなくちゃいけないし、こんなふうに集中できる場所はありがたかった。
家だとどうしてもサボっちゃうから。
それに、最近は作詞や歌詞の翻訳もしている。といっても簡単なものだけど。
そんな風に集中していたら、時間はあっという間に過ぎていて。
気付けば時計は17時を過ぎていた。
確かここに来たのが13時くらいだったから、どうやら4時間以上滞在していたらしい。
荷物を片付けて席を立つ。
すると、コーヒーメーカーのそばに居たソンハンビンが「お帰りですか?」と声をかけてきた。
『あ、はい』
「じゃあ、伝票お預かりしますね」
とそのままレジへ案内される。
……気付かれていないとはいえ、少し気まずい。
「ちょうどいただきます」
『ごちそうさまでした』
早口でそう告げ、足を一歩踏み出した瞬間ーー。
「先輩」
身体が固まった。
「ねぇ、先輩」
彼がもう一度私に声をかける。
ギギギギ…っと、まるで錆びたロボットのようにぎこちなく振り返る。
「あぁやっぱり、A先輩だ。文学部の」
なんで、どうして。そう言いたいのに、口が乾ききって上手く動かない。
「ずっとお話してみたかったんです」
そう言って、ソンハンビンは照れくさそうにはにかんだ。
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作者名:はる | 作成日時:2023年6月3日 15時