文豪と猫 (ページ39)

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真っ白な頭の中ページ39

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彼女の目は俺をしっかり見ていた。

それも、寝ぼけ眼やなくていつもの眼で。

俺は慌てて体を起こしたけどもう遅い。

「...........にしき、ど....先生...？」

彼女は何が何だか分からないような顔で俺を見て、ゆっくり起き上がる。

「え.....あの..........、」

困惑した顔で恐る恐る唇を指で触ろうとする彼女から、目を逸らした。

そして俺はわざと、はぁ、と小さくため息をつく。

「...ええ歳こいて一人で飲んで潰れるってどうなん？」

言い訳なんて、思いつくはずもなかった。

額や背中からは冷や汗が出てきとるし、思考回路はほぼ停止しとるに近い。

「.....先生が、迎えに？」

「...俺の電話番号が履歴の一番上かなんかやったらしくて、飲み屋の店主から電話あってん。山田さんちの住所知らんし、全然起きやんからここ連れてくるしかなかったんやんか。」

誰に責められてるわけでもないのに、言い訳するみたいに早口でそう言う俺。

昔から、自分に都合が悪い時や言い逃れをする時は決まって早口になることを俺自身、自覚してる。

「.....それは、ご迷惑おかけしました...。」

彼女は困惑の表情を残しつつも、俺に頭を下げた。

「目え覚めたんやったらタクシー呼ぶから帰りや。俺ももう寝るし。」

「あ...はい、すいません...。」

「荷物、そこに置いてあるから。」

それだけ言うと大股で寝室を出て特に目的もないのに仕事部屋に入ってドアを閉めた。

頭ん中、真っ白や。

「.....すみません、ご迷惑おかけしました。」

「またお詫びは後日ちゃんとしに来ますので、

.....おやすみなさい。」

彼女の声が部屋の外からした。

俺が強気を装ったから、さっきのはなんかの勘違いか寝ぼけてただけやったのか、くらいにしか思ってへんのやろか。

俺は彼女に返事することもなくデスクに突っ伏す。

何も、考えることができなかった。

ガチャン、と彼女が家を出てった音が聞こえた。

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「.........月が、綺麗ですね、」

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暗い部屋に俺の情けない掠れた声が、小さく浮かび溶けていった。

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