文豪と猫 (ページ38)

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魔が差したページ38

. ryo

寝室のドアを足で開けて、ベッドの上になるべくゆっくりと彼女を寝かせた後、

俺はベッドに腰掛けて大きく息を吐いた。

触れることすらできんかった人と体を密着させるってことにも素直に心臓高鳴らせてもうたけど、

それ以上に自分よりちっさい体を少しおぶっただけでめっちゃ疲れてもうた自分が情けない。

少し鍛えなあかんな....

寝室には服やらなんやら散らばっとったから、とりあえず起きた時に不快じゃないくらいには片付けて、

俺の布団使わすんはあれやから一応しまってあった新しい布団をクローゼットから引っ張り出して彼女にかけた。

一度も目を覚まさず、安らかに寝息なんかたてて眠ってる彼女は無防備で、いつもよりずっと幼く見える。

あの男は、

この寝顔を何度も見てるんやろうか。

...めっちゃ腹立つわ。

あまり化粧っ気のない顔、綺麗に生えそろった長い睫毛、薄い唇、白い肌。

....心臓が痛い。

手を伸ばせば触れられる距離で。

このままずっとここにおってくれればいいのに、なんて。

彼女が目を覚ましてもうたら、また、触れられなくなってしまう。

...あの男んとこに行ってしまう。

襲うなんて、そんな頭の悪いことはせえへんけど。

まさにこういうことを魔が差したって言うんかもしらん。

でも、

何もファーストを奪うわけやないし、

本人の記憶に残らへんのなら、

........キスくらいなら。

後ろめたさを感じながらも俺の体は動いた。

彼女の頭の少し上に手をついて、

覆いかぶさるように彼女に近づく。

顔を少し傾けて、

唇を重ねた。

柔らかい感触とともに、ほんの少しだけ酒の味がした。

1秒、

2秒、

もう、離れな。

....あと1秒だけ。

俺はやっぱりアホなんやと思う。

アホで、運が悪い。

俺がようやく唇を離して顔と顔の間が5センチほどになった時やった。

........彼女の目が、開いた。

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