初めて見る表情 ページ37
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"小料理 よこやま"はアカシア横丁の中にあった。
昭和の匂いを纏ったこの横丁はアーケードで覆われとって、夜やから中の店はほとんどシャッターが閉まっとる。
よう町のおっさん達がタムロしとる飲み屋の提灯の明かりがやけに眩しく見えた。
暖簾に"よこやま"と書いてあるのを確認して俺は引き戸を開ける。
「いらっしゃい、て、あ...錦戸先生ですか？」
店主は想像してたよりずっと若かった。
飲み屋のオーナーっぽくない、清楚な見た目。肌、白いな...
そしてカウンターに目を向けると、肩にブランケットをかけて突っ伏して寝とる彼女がおった。
髪の毛で隠れて、顔は見えへん。
「すんませんねぇ。わざわざ来てもろて。
住所知ってはるんやったら言うてくれればタクシー呼んだんに。」
店主は柔らかな表情を浮かべながらも何か確認するような目で俺を見ていた。
「いえ。山田さんにはいつもお世話になっとるんで。
それに、この状態やったらタクシー使うても家まで自力で辿り着けるか分からへんし。」
「ほな、頼みますわぁ。
Aちゃん、錦戸先生来てくれはったで。起き？」
店主がカウンターから出て彼女の肩を優しく揺さぶる。
"Aちゃん"呼びがなんとも癪に触るんやけど、多分この店主はしっかりしとる人や。
肩を揺さぶられた彼女から、んぅ、と小さい唸り声が聞こえたけど起き上がろうとせえへん。
「あ、いいっすよ。俺肩持ち上げるんで。
駅んとこに車停めとるからおぶってきますわ。」
俺が彼女の脇に手を入れてとりあえず体を持ち上げようとしたら店主も手伝ってくれた。
女の人のええ匂いと酒の匂いが同時に鼻をくすぐる。
彼女の顔は赤くて、目は閉じているけどふやけて見えた。
初めて見る表情。
「...こないなるまで飲むなんて、今までなかったからちょっとびっくりしてもうて。
俺もきちんと止められへんかったから責任あるんですけどね。」
店主は彼女の体を持ち上げ、俺の背中に乗せながら控えめに話し出す。
「仕事でなんかあったんかなぁて。」
仕事......
仕事やなくて...ムラカミ、やろ。
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ココナッツ(プロフ) - たむこさんっ…編集社と作家、文学作品に村上春樹、錦戸亮に村上信五…私のツボのオンパレード過ぎてこれはもうドキドキしかありませんっ続きを楽しみにしてます！ (2018年2月7日 2時) (
レス) id: d0c3580366 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たむこ | 作成日時：2018年2月5日 9時
