宴のあと ページ28
.
タクシーの中で気まずい感じになってしまったのもあって、
パーティ中は主催者側としての雑務を引き受けて錦戸先生について回ることはしなかった。
それでも遠巻きから彼を見ていてやっぱり居心地が悪そうで。
彼の社交性がないことも人見知りなことも知っている私はなんとなく申し訳ない気分になって、
一仕事を終えたら担当としてちゃんと錦戸先生をサポートしようと決めていたのに、
雑務を終え会場のどこを探しても彼の姿は見当たらなかった。
....帰ったんだろうか。
別に最初から最後までいなければいけないという決まりもないし、多忙な作家さんや漫画家さん達は途中で帰られる人もいるし、
人の多い場所の嫌いな先生なら途中で帰ったらということは大いにありえる。
"お疲れ様です。帰られましたか？
今日はありがとうございました。お土産あったのですが、日持ちするものなので来週伺った時お渡ししますね。"
そう連絡だけ入れておくことにした。
彼が会場いなくなったと知った途端、ほっとする自分がいる。
村上さんは村上さんで忙しそうにしていたし、多分彼との接触はなかっただろう。
...そんなことばかり考えてビクビクしている自分にもいい加減嫌気がさすけど、
...来月になればそんな心配も_____
図らずもそんな期待がうっすらと頭の中に浮かんで私は慌てて振り払う。
期待なんてしちゃダメなんだってば。
"お疲れさん。今日は焼肉でもいこか。"
無事パーティが終わり招待客も全員帰った頃に村上さんから連絡がきた。
"駅まで歩いてそっからタクシーやな"
村上さん自身は私程周りの目は気にしていなかった。
彼は誰にでも親密に接する人だし、周りからの信頼も厚いからたとえ彼と私が二人並んで歩いていようと彼の浮気を疑う人はいない。
それがまた、狡いところだとも思う。
「忙しそやったな。」
「村上さんも。お疲れ様です。」
「疲れたやろ。外食嫌やったらテイクアウトとかそんなんでもええけど。」
「いや、大丈夫です。焼肉食べたい気分ですし。」
「ホンマ？んなら今日はたくさん食べ。」
二人並んで駅まで歩く。
そしてふと、何かを思い出したように村上さんは言った。
「今日、錦戸先生とちょっと話したわ。」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 353人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ココナッツ(プロフ) - たむこさんっ…編集社と作家、文学作品に村上春樹、錦戸亮に村上信五…私のツボのオンパレード過ぎてこれはもうドキドキしかありませんっ続きを楽しみにしてます！ (2018年2月7日 2時) (
レス) id: d0c3580366 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たむこ | 作成日時：2018年2月5日 9時
