猫からのお願い ページ25
.
「来させてもぉてゴメンな。」
そう言いながらも彼の顔に悪びれる表情は全くない。
「タクシー、たくさん停まってるじゃないですか...」
「え？ああ、これな。山田さんの電話切ってからたくさん来てん。すれ違うのもあれやしと思って。」
飄々とした態度の彼は路肩に連なるタクシーに目を向けて言う。
嘘だなんて、すぐ分かる。
だけどその嘘は、彼が嘘をつくのが下手だというより、わざと嘘だとバレるように言っているように思えた。
わざとだ。
わざとタクシーがないと嘘をついて私を迎えに来させたんだ。
何の為？
なんて、彼の思惑を考えたところで分からない。
これも担当イジメの一環なのかもしれない。
「...とりあえず急ぎましょう。」
私はとりあえず待たせておいたタクシーに彼と乗り、ホテルを目指す。
「スーツとか、持ってたんですね。」
頬杖をつき窓の外を眺めてる先生にそう言うと、自分の服装を見ながらふはっと笑った。
「俺かて一応26やで？スーツの一着や二着くらい持っとるわ(笑)
ていうか、Tシャツとデニムでは来んなて言うたの山田さんやん。」
「...まあ、そうですけど。」
だって先生ならホテルにいつもの格好で来そうだと思ったから。
「どぉ？似合うてる？」
「まぁ、はい。」
「ビミョーな反応すんなぁ。」
「なんか、ジャズバーとかにいそうですね。」
いつもはただ剃るのが面倒くさいから生やしていると思っていた不精髭も、なんだかオシャレに見える。
素材がいいってすごいなぁ、なんて。
「なん、ソレ。褒めてんの？」
「一応。」
先生は笑みを浮かべながら指で目をゴシゴシと擦った。
信号が赤になって、車が止まった。
「......あの、」
膝の上に置いた両手をぎゅっと握る。
先生は私の方を見てたけど、私は視線は膝の上のまま。
「村上さん、今日、います。会場に。
...でも、もし会っても、私の話とかしないでいただけると助かります。」
お願いします、と頭を下げた。
「....そこまでする程、好きなん？」
先生はもう一度視線を窓の外に戻す。
「..........はい。」
情けなく頷く私に、
「あっそ。」
彼は掠れた冷たい声でそう言った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 353人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ココナッツ(プロフ) - たむこさんっ…編集社と作家、文学作品に村上春樹、錦戸亮に村上信五…私のツボのオンパレード過ぎてこれはもうドキドキしかありませんっ続きを楽しみにしてます！ (2018年2月7日 2時) (
レス) id: d0c3580366 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たむこ | 作成日時：2018年2月5日 9時
