文豪と猫 (ページ20)

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出会いページ20

. ryo

彼女と初めて会ったのは、俺が書いた小説がかの有名な文学賞を取った少し後やった。

あん時の俺は....て、今も大して変わらへんかもしらんけど

弱冠24歳で日本の文学賞の最高峰を取り、周りからは煽てられて調子乗ってたもええとこで。

出版社から配属されてくる担当は煽てることしかせえへんような使えへんヤツばっかやし、

そういうヤツは理不尽な事言うたりして困らせておもんなくなったら出版社に言うて担当を変えてもらう。

遊び半分でそんなことを繰り返しとった。

『今日から担当勤めさせていただく山田Aです。』

彼女は俺に丁寧に頭を下げる。

ブスやないけど、そこまでパッともせえへん。

真面目そうやし、コイツもおもんなさそやなぁと思った。

『なぁ、どの小説が一番好き？』

俺は担当が変わるたびに俺はこの質問を投げかける。

返答はだいたい決まっとる。俺が出した小説の中のどれか。今まで全員そうやった。

けど彼女は迷うことなくこう答えた。

『村上春樹の、海辺のカフカ。』

まあ、少しは驚いたんやけど、俺って天邪鬼やから。

それはそれで、可愛げのない女って心ん中で舌打ちした。

『...へえ、村上春樹好きなん？』

『そうですね、まあ。

先生の作品、全て読ませていただきました。先日は芥川賞受賞、おめでとうございます。』

その祝辞に心がこもってないようには聞こえなかったが、そこに彼女の感想は含まれていない。

俺は少しもどかしくなる。

『...俺の小説、どうやった？』

『それは、担当としての意見ですか？...それとも、私個人の意見ですか？』

『アンタの意見。』

『なら、控えさせていただきます。』

『なんで？』

そう聞くと彼女は少しだけ笑みを浮かべた。

堅い表情が柔らかくなる瞬間に俺の心臓がほんの少しだけ、小さく跳ねたんや。

『だってもう、聞き飽きたんじゃないですか？一般の人の感想なんて。

それに私、書かれたご本人の前でそんな大層な感想言える程立派じゃないので。』

嫌味には聞こえなかった。

彼女は今までの担当とまるで違う。

今まで出会ってきた女とも違う。

なんで好きになったんか。それは言葉ではよう表せへんもんやって言うけど、ホンマやった。

気づいたら、俺は彼女を好きになってた。

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