文豪と猫 (ページ17)

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失態ページ17

. ryo

「猫がどうやって死ぬか知っとる？」

彼女は何も言わない。

俺はテーブルの上に置いてあった煙草の箱に手を伸ばし、一本抜き取ると咥えて火をつけた。

くゆらせた紫煙越しに見る彼女はただ泣きそうな顔で俺を見つめる。

その目は蝋人形みたいで。

「一匹で死んでくんやて。弱った姿を他の人に晒さんように。」

「それは情があるわけやなくて、動物の本能として、な。

段々弱ってく体をホンマに死んでまうと思うまで隠し通して、その後はひっそり一匹で死んでいく。」

ハー、と煙を吐き出して、灰皿に灰を落とす。

そしてもう一度彼女を見た。

「....やめときや。

今ならまだ人間に戻れるで？」

だけどやっぱり彼女は同じ表情のまま何も言わんから、

せっかちな俺は次第に苛立ってく。

...そないな顔しやんと、何とか言えや。

猫を例えに出して、俺が何を言いたいのか汲み取れへんのやろうか？

はぁっと大きくため息をついた。

「...何がええの？そんな奴の。

浮気とか不倫する奴の中身なんてたかが知れとるやん。どうせ彼女と別れるとかなんとか言うてズルズルキープされるんやろ？

山田さん、もっと賢い人やと思ってたわ。」

勢いに任せて説教するようにそう言って、

あ、マズイ。

そう思った時にはもう遅かった。

「仕事のことならまだしも、プライベートまで先生に口出しされる筋合いはないです。

.......帰ります。」

その表情は怒りと悲しみが半分半分になったようなもので、声は震えとった。

原稿の入った封筒だけ持つとガタッと立ち上がって俺を残して仕事部屋から出てった。

俺は追いかけることもせず、ガチャン、と玄関の閉まる音を聞いてから、

さっきより長いため息をついて両手で顔を覆う。

何してんねん、俺。

昔から、言いたいことをなんでもすぐ口に出してまうのが俺の悪いとこで。

それを知っとるからわざと、物書きらしく比喩を使ったりして彼女の意識の中に少しでも俺の言葉が入れば、なんて思っとったのに。

結局、猫も、夏目漱石も、二葉亭四迷も、意味ないやん.....

「はぁ.....最悪や........、」

...担当、変えられたりしたらどないしよう。

口ばっか達者で、俺はこんなにも臆病者で。

それも全部、あなたやから。

俺、あなたのためやったら、死ねるよ。

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