文豪と猫 (ページ16)

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見透かされた猫ページ16

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月が綺麗ですね。と言われたら、私ならどう答えるのだろう。

.....分からない。

錦戸先生はあれから、村上さんについて聞いてくることはなかった。

私が猫になったあの日から。

それは偶然なのか、単に飽きただけなのか、それとも本当は何か勘付いていてわざと聞いてこないだけなのか。

分からないけど私はいつ聞かれるのだろうといつもビクビクしている。

「ん、ゲンコー。」

錦戸先生は紙の束をバサッと私に手渡した。

「...どうも。」

お待たせしました、くらい言えばいいのに。なんて、二年前から思ってきたことだ。

基本的に錦戸先生はお礼や挨拶、お詫びをしない。

紙束を軽く整え最初のページから軽くチェックを入れる。

せっかちで仕事も早いけどミスや抜けなどは圧倒的に少ない。まぁ、締め切りギリギリでそんなに速く書けるんだったら前もって書いといて欲しいけど。

私が来てから本腰を入れ始める、いつもそのパターン。

おかげで私は錦戸先生が書いている途中、お茶を入れたり、キッチンを片付けたり、さっきみたいに余計な質問を投げられたり、と

社にいるよりも錦戸先生の家に滞在している時間の方が長くなる。

よし、大丈夫そうだ。

これで今日の仕事は終えられる。

そう思って紙束をもう一度整えようとした時だった。

「.....ムラカミさんとは最近どおなん？」

錦戸先生はついに聞いてきた。

「...またその質問ですか。」

心臓がせわしなく動き始めたけど、わざとため息をついたりしていつも通りを装った。

上手く装えた、気がする。

だけど頬杖をつく錦戸先生は何も言わずじっとりと私を見てくる。

二重幅が広く睫毛の長い大きい目は私の内面を探ろうとしているように見えた。

いや、きっともう見透かされているんだ。

目をそらしたい。

そらしたいけど、そらすのも怖くてただじっと耐えるように先生の目の中を見ていると、

錦戸先生は、ふっと笑った。

そして私に言う。

「....猫にならんようになって言うたやん。」

その笑い顔はいつも通り私を嘲笑っているように見えたけど、

ぼそりと呟かれた声は掠れて何故か悲しそうに聞こえた。

その声に泣き出してしまいそうな私がいた。

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