15年 (ページ31)

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あいつのおかげページ31

『ごめんね！待たせて。行こ！花火！』

  誠也
 「え、あ、うん。電話、大丈夫やったん？」 

  『大丈夫！』

     ぜえはあと荒い息をして詰め寄る私の頭に誠也くんはびっくりしながらもタオルそっと掛ける。  
　

 誠也 
「急いで来てくれたんは嬉しいけど、汗ちゃんと拭きや？風邪ひくで」   

『あ、ありがとう』     

ふ、拭けない。誠也くんの匂い100パーセントの綿100パーセントのタオルで顔なんて、ましてや汗が止まらない脇なんて拭けない。 とりあえず拭いたふりをしておく。  

誠也
 「ふふ、ちょっとAちゃん。全然拭けとらんやん」

    やはり分かりやすすぎたのか。
 空を切っているタオルを誠也くんは掴み、私の顔をポン、ポン、と傷つけないように拭いていく。
 誠也くんの匂いと誠也くんの手の感覚がタオル越しに感じられてこの場に居たいけど居たくなくなる。  

なんでこんなに、心臓をわしづかみにするのだろう。

     できるだけ誠也くんの方を見ないようにして歩いていたら目的の小さな公園に辿り着いた。 
誰もいない静かな公園のベンチに座る。 
誠也くんの隣にコンビニの袋をおいて、その隣に私が座る。 

少し距離が遠くなってくれて良かった。
少しは心臓が楽になってくれる。  

誠也くんが買ってくれた飲み物を飲みながら花火を見る。

      誠也 
「おー！今のゴリラの花火綺麗やったな」

   『ね、綺麗。ゴリラじゃなくてサルだったと思うけど』  

誠也
 「え～？ほんまに？」

        2人きりの空間っていつぶりだったかな。
すごく懐かしく、そして新鮮だ。
 誠也くんも同じことを思ってくれていたらいいな。
  実ることのない私の彼への想いの中のこの空間は、ただの気休めの一つかもしれないが確かに幸せを感じれている。     
これも全部、後押ししてくれた晶哉のおかげだ。     

ドン、

    『……あ』 

誠也
 「え？」

       私がそう思った瞬間、一つの花火玉が打ちあがった。          

オレンジの可愛らしいシルエットに包まれた、目が笑っている犬の花火。
     こちらを微笑んでゆっくりと散っていった犬は、まるで晶哉が「良かったな」と言っているように思えた。

 晶哉に似た犬の微笑みにつられて私も口元も綻ぶ。