あたしにケーキは必要ない. ② (ページ16)

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「…どういうこと？A、シングルもアルバムも出してるじゃん」

『あれは、私の目の前で私の曲を聴いてるわけじゃないやん。それはまだ大丈夫やねんけど、ライブとかがどうしても苦手で』

眉間に少し皺を寄せて、不思議そうな顔をするとしみつ。わかるよ、そうなるのは。私にもよくわからんねんもん。

『大学生の時に、…ほんまに2,3人からやねんけど、ライブで歌ったのを笑われて、馬鹿にもされて。それ以降何となく不特定多数の人の前で、リアルタイムで歌うのが苦手になった。』

顔見知りの前なら、いい。でも、相手だけが私を認識している状態で歌うのは何故か怖いままで、___歌手を、諦めた。でもどうしても夢を捨てきれなくて、YouTuberになった今、色々な大人の人と話し合った結果、"ライブはやらない"という条件で無理を言ってCDを出させて頂いている。

『…おかしいやろ、こんなん』

「……まぁ、おかしいっつーか…変わってはいるよな、ライブ出来ないっていうのは」

やっぱり、そうだよね。歌の世界は、こんな変な考えが罷り通る世界じゃ無いことはわかっている。でもどうしても捨てきれない思いだった。

ぼんやりとそんなことを考えていると、不意に両腕の中にあったギターが奪われて。ハッとしてとしみつを見上げると、予想と反して優しい笑顔の彼と目が合う。

「……そんな顔すんな、誰もAのこと責めたりしねぇから。」

そんな顔って、何。そう返そうとしたのに、声が出ない。見上げたとしみつの顔が少しぼやけてくる。…あれ、私は何で泣きそうなんだろう。

「あのな、A。お前はそのままでいい。怖いもんがあって、出来ないことがあっていいんだよ。ライブが出来ないからってAの歌が好きな気持ちは消えたりせんやろ？CDでも充分伝わるもんは伝わるんだから、ライブなんかしなくてもいい。Aはそれでいいんだよ」

__ああ、どうして。どうしてとしみつは、みんなは、私が欲しい言葉をくれるんだろう。どうしてこんなにも優しい気持ちにさせてくれるんだろう。

どうして、いとも簡単に私を救ってしまうんだろう。

「…だから、今は歌えよ。俺がギター弾くから、Aの歌聞かせて。」

『……うん、わかった』

今度は、彼のCコードが空に響き渡る。

写真には残らないけれど、彼のギターと私の声が、一生の思い出になった瞬間だった。

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