あたしにケーキは必要ない. ② (ページ5)

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# 青春とキャンバス_しばゆーページ5

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「…Aの絵は独特だな」

『何その絶妙に傷つくやつ』

いや…と濁し始めた困り顔のしばゆーと、ムッとした顔の私、…そしてキャンバスにでかでかと描かれた、私が描いた空と草原がパシャリという音とともに写真として切り取られる。

『絵は苦手やねん』

「その方が人間味あっていいと思う」

『優しさが痛いわ…てかしばゆー上手すぎやん』

「そう？ありがと」

照れ臭そうに笑うしばゆーの目の前のキャンバスに広がるのは、地平線まで描いた夜の海。きらきらと反射する水面や星が本物みたいで、絵の具で…私と同じ画材で描いたとは思えないくらい。

『やっぱ子供できると絵も上手くなるもんなん？』

「えー子供関係あんのかな？(笑)でも昔から絵描くのは嫌いじゃなかったしなぁ」

『ぽんすも幸せものやねぇ、こんな格好よくて何でもできるパパがおって』

「ふは、急に何。褒めてもお金ぐらいしか出ないよ(笑)」

『お金は出るんかい(笑)』

けらけらといつものように笑うけど、しばゆーの顔はいつもとは少し違った。きっと彼はぽんすのことを少し思い出しただけかもしれないけど、それでも今の顔は紛れもなく"父親"であるしばゆーの顔になっていた。なんか、いいなぁ。

『やっぱりさ、結婚とか出産って人生変わるよな』

「変わるねー。てか、自分から変わらなきゃって思うことの方が多いかな」

『ほぉー…』

例えば？と首を傾げてみると、難しいなぁと言いながらもしばゆーの顔はどこか生き生きしていて。ちょんちょんとキャンバスに筆を当てながら、照れ臭そうに言葉を続ける。

「今まではなぁなぁで済んでたことも、ちゃんとけじめつけなきゃって思うようになった。
俺は"東海オンエア"のしばゆーであると同時に、"父親であり旦那"であるしばゆーでもあるから。何かあった時にメンバーが、あやなんが、ぽんすが俺のことを誇りに思えるように、しっかりしなきゃなって思うことが増えたかなぁ」

かたん。しばゆーが話し終わると同時に、パレットに筆を置く。目の前に広がる夜空と大海を見つめて、しばゆーはどこか楽しそうだった。まるで、自分の人生そのものを愛でるように。

『なんか、かっこいいな』

「ふふ、ありがと」

『…私も、しばゆーみたいに幸せになれるかな』

「…なれるよ、Aは絶対俺以上に幸せになれる。俺が保証する」

『……ん、ありがとう』

何でもない美術室がしばゆーの言葉できらきら輝いた、…ような気がした。

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