立ち上がる #1

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Chaka

本当に、一瞬の出来事だった。場当たりをして、俺たちは先にセットを降りる。如恵留はいつも通り、最後に残ってアクロバットの位置を確認する。いつも通りの、なんてことないリハーサルだった。だからこそ俺たちは、如恵留を見ることもなく、スタッフさんや共演者に挨拶をしていた。


「え？」


ガシャン、と音が聞こえて振り返るともう倒壊が始まっていて、何もできないまま、大きな音と共に如恵留の姿が消えた。


「如恵留！」


騒然とする現場で如恵留に駆け寄ろうとすると、スタッフさんに腕を掴まれて、振り払うことを許してはくれなかった。それは他のメンバーも同じだったようで、俺たちはマネージャーさんの判断で、そのまま楽屋に閉じ込められてしまった。不安で過呼吸を起こした元太の背中を閑也がさすっていて、その隣でしめが泣いている。松倉はブルブルと震える手を握りしめていて、海人はセットしていないサラサラの髪をぐしゃぐしゃと掻き乱していた。俺は、何もできずただ立ち尽くしたまま、ドアの前に立っていた。


「クッソ」


海人が突然大きな声を出して立ち上がる。松倉は驚いて肩を震わせた。


「海人、」

「どけよ、海斗。話聞いてくる」

「だめだよ。俺たちは楽屋待機」

「おかしいだろ、なんであんなもん倒れてくるんだよ。絶対なんかあるだろ！原因がなんであったとしても、俺は許せない！」


激昂する海人の腕を掴む。海人の気持ちはよくわかる。でもいま、優先すべきは海人の気持ちじゃない。


「そんなことしても、如恵留は喜ばない」


名前を出すと、海人はギッと俺を睨む。


「お前の中の如恵留は、何て言ってる？」


如恵留は賢い人だ。それぞれに対して、話し方も、話す内容も、姿勢も全然違う。こんな時、如恵留は海人になんて言うだろう。


「離せよ」

「離さないよ。俺は、如恵留を悲しませたくない」


そういうと海人は声を上げながら崩れ落ちる。


「俺も怖いよ、同じ気持ちだよ、、でも、信じよう、大丈夫だよ」


泣き噦る海人を抱いて、俺の目からも涙が流れる。その後マネージャーさんがきて、とにかく週刊誌対策のために俺たちは事務所に戻されることになった。病院に行きたかったけど、今動いて場所がバレるのもマズいし、事故の原因が分かるまでは、身動きが取れなくなってしまった。

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