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そんなやり取りをしながら、薄暗い店内で個室がずらりと並ぶ廊下を奥へ奥へ進み、高地さんはでエレベーターの扉を開けた。
「今日でここに来るのは最後ですもんね。
北斗も…田中様も」
「えぇ。本当にお世話になりました」
高地さんは俺の言葉を聞いて、いつもの笑顔に少しだけ寂しさを残すような表情をした後、俺に深々の頭を下げた。
「いらっしゃいませ、田中様。お久しぶりです」
深々と頭を下げた高地さんの後ろから現れたのはオーナーの森本さんだった。
あの日事務所で声を荒らげて以降、会うことはなかったので、少し気まずくて、自分の顔が分かりやすく引きつってしまった。
「あぁ…お久しぶりです。あの時はその…」
「いいんですよ。私こそあなたの気を逆撫でるよなことをしてしまいました。あの時は大変失礼致しました」
また深々と頭を下げられたことで、自然と自分の頭も下がった。
「いえ…そんな。俺たちはあなたがいなきゃ今頃どうなってたか」
「いや僕も北斗と…そして田中様にも助けられたんですよ？」
意外な言葉に眉をひそめると、森本さんは少し笑った。
「まあもう時間も迫ってることですし、ご挨拶だけしようと思って伺っただけですから」
結局誤魔化されてしまい、その言葉の意味を知ることはできなかった。その後すぐにエレベーターの扉が開いて、扉を抑えて待っていた高地さんに促され、そのまま乗り込んだ。
「田中様、今までご来店頂きありがとうございました。そして…
北斗をよろしくお願いします」
そう言い終えた後、再び頭を下げた森本さんと同じように高地さんも頭を下げ、2人の上がることの無い頭を見ながら、本当に今日が最後だということを実感して、少しだけ息を吐いた。
「はい。もちろんです。
あと1つだけ
森本さんにお伝えしたいことが…」
そう言うと頭が上がり、少し不思議そうにこちらを見た。
「なんでしょう」
「北斗が言ってました。
"慎太郎は俺にとって親同然だったけど、何より最初で最後の俺の先生だった"と」
北斗はまともに学校に通っていなかった分、森本さんに教えてもらっていた時期があったと話していた。
その時に北斗が独り言のようにそんなことを言っていたのを思い出した。
それを何故か今伝えたくなった。
それを聞いた森本さんは、少し眉を上げて、頬を緩ませた。
また森本さんは深々と頭を下げると、エレベーターの扉はゆっくりと閉まった。
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作者名：くれよん
| 作成日時：2022年12月26日 20時
