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行き交う人は変わらずギラギラと輝く何かをつけている人が多く、その中で可愛いリボンや厚底の靴を履いた人たちも多くすれ違う。
そんな人並みや、むやみやたらに声をかけるキャッチにも動じず、目指す場所はいつも1つ。
あの自動販売機を曲がって、派手なキャバクラ店の横にある小道に入り、突き当たったらパチンコ屋を左。
自動ドアのボタンに触れると、建付い扉が変わらず大きな音をたてて、重いガラスを揺らしながらゆっくりと開く。
「あっいらっしゃいませ」
そう言いながら入口に立っていた黒服は、俺の顔を見た途端、肩から少し力を抜いた。
「いい?」
「はい。ご案内します」
ずっとカードを無言で手渡すことで通されて来たこの道は、今やカードすら必要ではなくなった。
「高地さん、なんか少し雰囲気変わりました?」
「わかります?実はこのスーツ、北斗からのプレゼントなんですよ。餞別にと、ここのスタッフそれぞれに贈ってるみたいです」
一瞬黒のソリッドに見えるが、よく目を凝らすとシャドーストライプのスーツに身を包んだ高地さんは、薄い黄みのかかったネクタイを少し締め直して、嬉しそうに笑っていた。
確か北斗がお世話役のジェシーにあれこれ頼んで餞別を用意していたのは知っていた。
北斗は餞別という言葉も知らず、プレゼントしたいという気持ちのみで、スタッフ全員にプレゼントを渡している。建前も常識も感じさせないその差し出し物に、きっと高地さん含め全員が喜んだだろう。
「すごく似合ってますよ」
「ありがとうございます」
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作者名:くれよん | 作成日時:2022年12月26日 20時