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不本意に当たってしまった爪が残したものなのか
それとも力が入ってしまった不慮の傷なのか
それも違って偶然を装ってわざと残るようにしたものなのか
どちらにせよ何処ぞの馬の骨ともわからない男たちが残していった微かな跡や傷はあった。
"ごめんね使い古された中古品みたいで"
いつかの日に、一瞬俺がその傷を気にしてしまったことに北斗は気づいて、そんなことを言ったことがあった。
その時に北斗が見せた表情は、どうにも忘れられない。
それが北斗に"俺は綺麗じゃないけど"と言わせたのだとしたら…
「もし…」
「ん?」
「もし使い過ぎて故障したり、壊れてしまったものがあったら、俺は何度もでも修理するし、もう動かなくなったり使えなくなっても、絶対に捨てたりはしない。いつまでも大切に持っておく。
それだけ長く使われたのは
それがとても優秀で価値が高く
それだけ大切にされるほどの何かがあったものだから」
言い回しがキザで格好をつけ過ぎたか。
ちゃんと伝わっているだろうか。
そんなことを思って言葉にしたことをすぐに後悔したが、北斗が両腕を背中に回して俺を引き寄せて、強い力で抱きしめられた後、肩に埋められた北斗の顔の辺りから、生ぬるい水滴が自分の体を伝ったことで、やっぱり言葉にしてよかったと胸を撫で下ろした。
最後の120分
これが長いのか短いのかはわからない。そこに支払われる金額がそれ相応のものなのかも。
知らなかった世界で、知るはずもなかった人に出会い、知らないことを知った。
知らない愛だの恋だのの形を知った。
浮世離れしていて、どこか遠くに感じていた世界が一気に自分の世界に近づいて、その変に完成された世界から今1人の男を連れ出そうとしている。
だからその決意のために
この世界の最大限の愛し方で
ここでの最後の夜を終わらせる。
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作者名:くれよん | 作成日時:2022年12月26日 20時